目黒川は、池尻大橋・中目黒・五反田・品川など都心を流れる全長約8kmの河川。
川沿いに桜並木やおしゃれなお店がたくさんあって、多くの人が集います。
ただ一方で、集中豪雨が発生した場合、目黒川流域では浸水被害が発生するエリアもあることをご存じでしょうか。
本記事では、防災士の視点から、
- 目黒川の特徴
- 目黒川の水害リスク
- 目黒川流域3区の水害ハザードマップ
- 2025年に目黒川で起こった水害の事例
- 個人や企業でできる目黒川沿いの水害対策
についてくわしく解説。
目黒川沿いで暮らす、働く、訪れるすべての人が、水害にどう向き合えばいいのか一緒に考えたいと思います。
あらためて目黒川とはどんな川?
目黒川は、世田谷区池尻三丁目付近を上流端とし、世田谷区・目黒区・品川区を東流、品川区東品川一丁目地先で東京湾に注ぐ都心の川です。流域面積約45.8 ㎢、河川延長約8.0km(支流をあわせた流路延長は 30.3km)。二級河川に指定されています。
また、目黒川には開渠(かいきょ)と暗渠(あんきょ)の両方が存在するという特徴があります。

「開渠」とは、地表を流れていて水面が見える川や水路のこと。桜並木沿いの目黒川のような いわゆる“普通の川”がこれにあたります。

一方で「暗渠」とは、川や水路を地中に埋めたりフタをしたりして、その上を道路や公園などとして整備したもの(上写真参照)。都市化にともなって下水道や幹線水路(その地域の主な水路)として転用され、地上からは川が見えなくなっています。
目黒川流域の水害リスクを知ろう
では、目黒川にはどのような水害リスクがあるのでしょうか。
開渠と暗渠、それぞれでのリスクを解説します。

目黒区の資料(上の図)の「濃い青」で描かれている部分が目黒川の開渠で、「水色」で描かれている目黒川大橋上流部および支流部分(北沢川・烏山川・蛇崩川)は暗渠。
昭和30年代の急速な都市化に伴い、地中に埋められ暗渠化された川の地上部は緑道として利用されています。
目黒川の開渠部分の水害リスク
目黒川のうち、目黒区・品川区を中心とする中流〜下流部分は「開渠(かいきょ)」、つまり地表を流れる川として整備されています。
この区間では、近年の都市型集中豪雨や台風の際に、短時間で川の水位が急上昇する傾向が見られます。特に、上流から大量の雨水が流れ込むと同時に下流域でも降水量が多いと、川幅の狭い箇所や橋周辺では水が滞留し、氾濫や越水につながるおそれがあります。
また、目黒川の開渠部分の特徴として、川沿いに住宅やオフィス、商業施設が密集している点が挙げられます。
川に近い低地では、たとえ堤防が整備されていても、排水ポンプの処理能力を超える雨量が続くと、道路や建物の敷地内に雨水が逆流する「内水氾濫(ないすいはんらん)」が発生する可能性があります。
特に、地下階のある建物や、地下鉄・地下駐車場の入口などは、短時間で浸水するリスクがあるため、止水板の設置や早めの避難判断が必要です。
さらにこの地域には「土砂災害(特別)警戒区域」、「家屋倒壊等氾濫想定区域」も点在しています。
このように開渠部では「川そのものの氾濫」と「都市の排水能力の限界による浸水」が同時に起きる可能性があり、居住地選びや防災計画立案の際はハザードマップ(自然災害が発生した際、その地域のどこにどんな災害リスクがあるのかを自治体ごとに記した地図)の確認が欠かせません。
目黒川の暗渠部分や、支流(北沢川・烏山川・蛇崩川)の水害リスク
一方、目黒川の上流や支流には、かつての自然河川が都市整備の過程で地中化された「暗渠(あんきょ)」が多く存在します。代表的なものに、北沢川や烏山川、蛇崩川といった支流があり、現在は緑道や道路の下を流れる下水道幹線として機能しています。
暗渠は、普段は地上から水の流れが見えないため、「ここに川がある」という意識が薄れがちです。しかし、大雨が降ると、地下にある水路や下水道の排水能力を超えて水が逆流したり、周囲の低地に水があふれ出したりするケースがあります。
また、暗渠の上は地形的に凹んでいる「谷筋」にあたることが多く、見た目は平らでも、水が集まりやすい場所です。そのため、豪雨時には短時間で道路冠水や建物浸水が起こりやすくなります。
暗渠上の地域では、目に見える川がない分、居住者や事業者がリスクを感じにくいことが課題です。土地の成り立ちを知ることで、暗渠の位置や地形を意識し、ハザードマップの確認・止水対策・避難経路の事前確認などによって、見えないリスクに備えることが大切です。
烏山川緑道、目黒川緑道、北沢川緑道といった「緑道」が、現在の暗渠である場所のわかりやすい目印となります。また、目黒川の暗渠には人工のせせらぎが作られている場所が多いので、暗渠の場所を把握するのは比較的容易かと思います。
目黒川流域の水害ハザードマップでリスクを確認
目黒区、品川区、世田谷区にまたがって流れる目黒川。
この項では、それぞれの区が発行している水害ハザードマップをもとに、目黒川流域の災害リスクを見ていきたいと思います。
目黒区の水害ハザードマップ

目黒区の水害ハザードマップを見ると、目黒川の開渠部分を中心に広い範囲で浸水リスクが示されています。
多くの場所が浸水深2~3m(1階の軒下〜2階の床下が浸かる程度)を示す「水色」。場所によっては浸水深3-5m(2階の軒下が浸かる程度)を示す「濃い青」となっています。
また、中目黒駅から西へは、現在は暗渠となっている蛇崩川沿いにも水害リスクが示されています。
さらに注目したいのは、オレンジと赤で示されている「土砂災害警戒区域等」。都心で土砂災害が発生するというイメージはないかもしれませんが、実際には目黒区内にもこのような区域が存在します。

また、赤の網模様で囲われている「家屋倒壊等氾濫想定区域」も、中目黒駅周辺に点在しています。

筆者は、2024年夏に山形県で大雨による水害により大破してしまった川沿いの家や堤防を見たことがあります。普段は癒しを与えてくれる川ですが、ひとたび大雨が降れば大きな脅威となることを忘れてはいけません。

品川区の水害ハザードマップ


出典:品川区防災冊子
品川区内でも目黒区内と同様に、目黒川の開渠部分に沿って浸水の危険性が示されています。多くの場所が浸水深1-3m(大人の膝まで浸かる程度〜2階の床下が浸かる程度)を示す「薄いオレンジ」、場所によっては浸水深3-5m(2階の軒下が浸かる程度)を示す「濃いオレンジ」となっています。
また、土砂災害警戒区域等も区内に点在しているので、油断はできません。

世田谷区の水害ハザードマップ

世田谷区北部では、目黒川の支流・暗渠化された旧水路を中心に水害リスクが示されています。浸水深1-2m(1階の軒下が浸かる深さ)を示す「水色」のエリアが多く、場所によっては浸水深2-3m(1階天井をこえて浸水する深さ)を示す「濃い水色」のエリアもあります。
2025年に目黒川で発生した水害の事例

直近、東京・神奈川で大雨が降り、目黒川でも水害発生のリスクが高まる出来事がありました。
近年、都心でも大雨による水害リスクが高まっています。2025年には、東京・神奈川で相次いで大雨が発生し、目黒川でも氾濫危険情報が発表されました。
2025年7月10日
大雨の影響で目黒川が増水し、氾濫危険情報(警戒レベル4相当)が発表されました。
目黒川青葉台水位観測所(目黒区青葉台)で氾濫危険水位に達し、氾濫が発生すれば東京都品川区、目黒区などで浸水被害が発生するおそれがあると報じられました。

このとき、目黒川の支流である蛇崩川では、内水氾濫が発生しています。
2025年9月11日
ゲリラ雷雨の影響で目黒川、野川、仙川などが増水し、氾濫危険情報(警戒レベル4相当)が発表されました。

同日には、東京都と神奈川県で記録的な大雨が降り、川の氾濫によって住居や店舗への浸水、駅や道路の冠水、道路の崩壊などの被害が相次ぎました。
「30分ほどで水かさが上がった」「止水板準備中に浸水」といった声もあり、都市部では水害発生から被害拡大までの時間が短いことが明らかになりました。都心でも水害が身近であることを実感する出来事だったと思います。
個人や企業でできる目黒川沿いでの水害対策
ここまでの解説で、目黒川沿いで暮らす、働く、遊ぶ人にとって、水害リスクが他人事ではないことが分かったと思います。
では、被害を最小限に抑えるためにどうすればいいでしょうか。以下に具体的な対策を紹介します。
自宅・職場の水害リスクを把握
自治体が公開しているハザードマップを確認する
目黒川流域の世田谷区・目黒区・品川区の水害ハザードマップで、浸水想定区域や土砂災害警戒区域を事前に確認しましょう。
自治体が設定している避難場所を確認する
過去の浸水実績を知る
これまでにどのエリアでどのくらい浸水したことがあるかを知ることも、水害対策を考える時に役立ちます。
以下図で青で囲われている箇所は、東京都が実施した過去の水害統計調査の記録からとりまとめたもので、平成元年~令和元年までに発生した主要な浸水実績が表示されています。
目黒川:不動前駅〜大崎駅付近

不動前駅~大崎駅付近では、広範囲に多数の浸水履歴が記録されています。
目黒川:池尻大橋駅付近

池尻大橋駅の北西部(世田谷区池尻3・4丁目)に、数度の浸水実績があります。
蛇崩川:三軒茶屋2丁目と上馬5丁目

支流部分の蛇崩川では、東急世田谷線(松陰神社前駅~若林駅~西太子堂駅の南側)と東急田園都市線(駒沢大学駅の北側)、世田谷区三軒茶屋2丁目と世田谷区上馬4丁目・5丁目に、複数回の浸水があります。
建物や土地の防災対策
地下・半地下、低地の浸水対策
地下室や地下駐車場、半地下や低地にあるオフィス・住居は、短時間で浸水する可能性があります。
止水板や防水板の準備、排水口が詰まっていないかの確認・掃除を定期的に行うと安心です。
目黒川沿いエリアに訪問時の安全確保
普段は行かないけれど、買い物や遊びで目黒川沿いエリアに出かけるという場合は、事前に避難先を把握しておきましょう。
例えば、上記で説明した各区の水害ハザードマップをみると、東山中学校・烏森小学校など、小中学校を中心に水害時の地域避難所が記載されているので確認しましょう。

その上で、水害時は大雨でその避難所の安全が担保されないなどの状況により、避難所が開設されない場合もあります。避難所の最新状況を知るには、各自治体のウェブサイトや公式SNSなどを確認することが有効です。
災害情報収集の習慣をつける
目黒川沿いにいて、大雨になりそうなときは、スマホなどで早めに気象情報や災害予想情報を調べて、危険度が高まる前に避難判断をしましょう。
河川水位・気象警報の確認方法
気象庁が提供するWebサイト「洪水キキクル」を活用しましょう。
川が洪水する危険がどの程度迫ってきているか、3時間先までの予測をリアルタイムで確認することができます。

防災アプリの活用がおすすめ
災害情報の収集には自治体などの防災アプリの利用が便利です。
以下におすすめをいくつか挙げていますので、試してみてください。
- Yahoo防災速報
[App store][Google play] - NERV防災
[App store][Google play]
上記2つのアプリいずれも、設定で「現在地との連動通知」をオンにしておくと、その時いる場所に対して必要な通知が飛んでくるのでおすすめです。
居住者や企業は日常備蓄・水害補償の確認も
備蓄品の準備
停電・断水を想定して、最低3日分の飲料水、食料、簡易トイレ、懐中電灯、モバイルバッテリーなどを備えておく。
水害補償の確認
火災保険や地震保険に水害補償が含まれているかを確認し、必要に応じて見直す。
自治体の取り組みを活用
土のうステーション
目黒区・世田谷区・品川区では、区民が必要に応じていつでも土のうを持ち出せる「土のうステーション」を設置しています。
「〇〇〇区 土のうステーション」でWeb検索すると、設置場所の情報が出てくるのでぜひチェックをしてみてください。

止水・防水板設置への助成金制度
目黒区と品川区には、住宅や店舗に止水板・防水板を設置する際、費用の一部を助成する制度があります。
目黒川沿いの居住者や企業は、こうした補助制度を活用することで、水害対策を進めやすくなります。事前に担当部署へ問い合わせ・相談してみましょう。

おわりに /「知る」「備える」「早めに動く」
目黒川は、都心の暮らしのすぐそばを流れています。川沿いを散歩したり、買い物に出かけたり、職場へ向かったり――そんな日常の中にも水害リスクは潜んでいます。
目黒川沿いに限りませんが、水害対策は「知る」「備える」「早めに動く」という3つの視点を持つことが大切。
暮らす・働く場所の地形はどうなっているか。
目黒川の開渠や暗渠が近くにあるか。
自治体のハザードマップではどんな水害リスクが示されているか。
まず知ることから水害対策を始めてみてください。

