この連載は、実家暮らしをしている新卒2年目の20代女子が、一人暮らしへの憧れから「オトナ女子のよりよい暮らし」を求めて部屋選びをする という、1話5分のあるある満載のwebノベルです。
「そろそろ一人暮らししたいな」と考え始めたあなた…!一人暮らしする前の準備を整えやすくなるかもしれませんよ!
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著:蛙田アメコ / イラスト:八咲ヒサ
テレワーク期間が終わってからも、残った習慣がある。
オンライン飲み会だ。
「ごきげんよう、藤吉先輩」
『あはは、懐かしいね。ごきげんようって。家村ちゃん元気してる?』
今日は土曜日。
部屋着の中でも可愛いやつを着て、カメラの画質的にちょうどいいくらいのメイクをして。
好きなおつまみと甘いお酒を机の前に揃えて、乾杯。
最近は、バニラアイスの大きいやつとメロンソーダ味のお酒を組み合わせて『大人のクリームソーダ』をつくるのにハマっている。
ちなみにおつまみは、100円で売ってるコンビニのシュガーラスク。
こんな組みあわせ、居酒屋さんではできないメニューだ。
お金もかからないし、居酒屋さんでタバコ臭くなることもない。
それに終バスを気にせずのんびり飲めるので、気に入っている。
そう、けっこう気に入っている……のだけれど。
「かんぱーい!」
声をひそめて乾杯をする。
自分の部屋で、小さい声で。
それはそれは、ものすごーく、小さい声で。
なぜなら――。
『かんぱーい。家村ちゃん、今日は大丈夫なの?』
「はい。弟は今日は塾があるので……あ、21時くらいには弟が帰ってくるので、そこで離脱しますね」
『そっかぁ、大変だね。年の離れた弟っていうのも』
「まぁ、可愛いんですけどね。ふじ先輩は兄弟いないんですか?」
『うん、ひとりっ子だよー』
実家には14歳ほど年の離れた弟がいるのだ。
今年、中学受験をするらしい。
親も弟も、私が部屋で通話をしていると「勉強の邪魔だよ!」とピリピリするのだ。
――そんなぁ、私だって頑張って働いているのに! 華の新卒2年目なのに!
今日のオンライン飲み会のお相手は、藤吉夕美(ふじよし ゆうみ)先輩。
高校のときの茶道部の先輩だ。
先輩とはいえ、私が入部したときにはすでに藤吉先輩は学校を卒業していた。
年に2回行われる卒業生主催のお茶会で、どういうわけか意気投合してしまったのだ。
藤吉先輩はアニメや漫画、ゲームにすごく詳しくて……まぁ、わたしもそういうの嫌いじゃないし。
私が好きなアイドル俳優の出演する舞台の原作ゲームを藤吉先輩がやっていたのが縁だった。
「……先輩って、ずっとひとり暮らしでしたっけ」
『大学のときに上京してからずっとそうだねー』
「いいなぁ、ひとり暮らし」
『うん、気ままだよー。お金はキツイときもあるけど、賃貸なら自分で生活のサイズも調整できるし。生活リズムも自分で作れるし』
「はわぁ……。お風呂の時間も、朝急いでるときのトイレも、自分のリズムでできるんですよね……」
『あー、実家だとそうだよね。朝、だれかトイレ入ってるとちょっとイラってするかも』
「そうなんですよ……!」
『お隣や上下の階の人にはやっぱり気を使わないといけないけど、こうしていつでも通話で飲み会できるしね』
好きなものに囲まれて過ごすのも楽しいよ、と藤吉先輩。
いいなぁ、とため息が出る。
ひとり暮らし……憧れのひとり暮らし……!
テレワークだったときも、やっぱり家族の目や生活音が気になったもんなぁ。
ひとり暮らしだったら、きっと誰に気を遣うでもなくテレワークやテレ飲み会ができるのに……!
もしかして、そうしたらタクシー代とか飲み代とかも逆に節約になるんじゃないかな。
『もしかして、ひとり暮らしに興味あるの、家村ちゃん?』
「実は、けっこう興味あります……!」
『そうなのねー。えへへ、実はね……私去年引っ越ししたんだけどさ、持ち家なんだよ』
「えええ!? 持ち家って、買ったってことですか!?」
おっと、大声を出してしまった。
慌てて声のボリュームを落とす。
でも、家を買うって…… 先輩すごい!
『知り合いが家買ったの見て、いいなーって。色々悩んだけど、やっぱり自分のための家っていいよ』
「自分のための家……」
ひとり暮らし。
それって、自分のための家を借りるってことなんだ……。
なんだかとっても素敵な言葉に思えた。
いや、さすがにいきなり今すぐマンション買うぞ!
……なんて気持ちには全然なれないけれど(ちょっと、それはあまりに大それている気がする)
でも、そうかぁ。
自分の部屋を借りる……自分の部屋を持つ……。
家賃とか、生活費とか、今まで考えたこともなかったけれど。
……私にも、ひとり暮らしってできるかな。
ほわ、と私の思考は「ひとり暮らし」に飛んでいく。
『こういうご時世だし、家村ちゃんも家買ったら~なんて全然言えないけどさ。いま実家で住めてるわけだし……あ、そうそう。この間の公演なんだけどさ』
「あ、あれ観に行けなくて! 話聞かせてください!」
その日の話はそれで終わり。
けれど、「ひとり暮らし」という言葉は、その日から私の中でどんどん大きくふくらんでいった。
そう。
たしかに、いま実家に住めていて、そのおかげできっとお金も節約できていて。
実家暮らしが、ダメかっていうとそうじゃない。
終バスの時間が早いとか、弟からの風当たりが強いとか、会社まで往復3時間とか――ちょっと不満はあるけれど、ダメじゃない。
だけど……だけど、ひとり暮らしってなんだかステキな気がするのだ。
――そして。
次の連休の初日。
会社の同僚から、「うちでたこ焼きしない?」と、いわゆるたこ焼きパーティ――『タコパ』のお誘いを受けた。
そのタコパで、私は素敵で無敵な「ひとり暮らしの生活」を見てしまうことになったのだ。
*** TIPS ***
今日の家村さんのオンライン飲み会のお相手は、高校時代の先輩の藤吉さん。オンライン飲み会なら、家が遠くても手軽に会えるのでいいですよね。
そんな二人の会話で、こんなシーンがありました。
『そうなのねー。えへへ、実はね……私去年引っ越ししたんだけどさ、持ち家なんだよ』
「えええ!? 持ち家って、買ったってことですか!?」
どうやら藤吉先輩は、持ち家のようです。
一人暮らしに興味のある家村さん、さすがにいきなり「買う」ことはなさそうですが、 「自分のための家」 を持った藤吉先輩に興味津々な様子…!
そんな藤吉先輩が「自分の城」を買うまでのミニストーリー『腐女子、家を買う。』。まだご覧になっていない方はこちらからどうぞ!
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一人暮らしでオタク女子(そして腐女子)な主人公が、実際に家を買うまでを全14回のミニストーリーでお届け。
【腐女子、家を買う。】を最初から読む >