この連載は、「一人暮らしで趣味を満喫しているオタク女子(そして腐女子)が家を買ったら……?」という物語を描く、1話5分のほっこりwebノベルです。
「家を買ったときの話、身近な友達には聞きにくい……」そんな疑問が解決するかも!
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「藤吉さん。よかったら、内見に行ってみませんか?」
カーサミア不動産に行ってみたその日。
相談を担当してくれた吉村さんの言葉に、私は思わず頷いてしまった。
ちょろい、私、ちょろい……!
だって、仕方なかったんだ。
だって、その、吉村さんが……ものすごくいい人で、そして熱血だったんだから!!
「カーサミア不動産では、自信を持ってご提案できる物件しか取り扱いません。そのために、独自の物件採点基準も持っているくらいです。だ・か・ら・こ・そ!! 物件選びで何より重視しているのが『内見』です! 実際に物件をご覧になってみないことには、お選びいただくのは難しいと考えています!」
¨ずびし、と言い放った吉村さんは、さながら戦隊モノのヒーローみたいだった。
こうなったらもう、乗り掛かった船だ。
内見の予約をとりつける。
前の不動産屋さんでは、こういう気持ちにはならなかった。
「えーっと、じゃあ、次の次の月曜日はいかがでしょうか」
その日は、前日にオフ会(※Twitter上などで交流がある同好の士といっしょに遊ぶこと。とても楽しい)があるので、思い切って有給を使っているのだ。
「かしこまりました。楽しみにしていてくださいね!」
パンツスーツをぱりりと着こなした吉村さんは、白い歯を見せた。
私の夢……、
・たくさんの収納スペース
(推しのグッズに雪崩を起こして欲しくない!)
・買ったときの支払いは、月8万円~8.5万まで
(趣味を楽しむためにこそ購入を検討しているのだもの!)
・できれば、なんとなく品川へのアクセスがいい
(大親友ずにさんと沢山遊びたい!)
をもとに、吉村さんが物件をピックアップしてくれるのだそうだ。
「金額や、図面や、カタログスペックだけでは分からない物件の良さや、デメリットがあります。しっかりと注目ポイントもご説明しますので、安心してください」
デメリットのことについても、きちんと考えましょう。
吉村さんの言葉に、やっぱりこの人は信用できるな……とおもった。
それに。
「あと、さっきおすすめしていただいた『プロメア』、ぜひ観てみますねっ!」
すごく誠実で、優しそうな女性だ。
だって、雑談のなかでぽろっとこぼれたタイトルをしっかり覚えていてくれたのだ。アニメとか、全然観ないっぽいのに。
「……よ、よろしくお願いします。もしかしたら、色々考えて買えないかもしれないですけど」
「それは気にしなくて大丈夫です。藤吉さんにとっての『買いどき』を、しっかりお伝えしますからね」
「……っ! はい、ありがとうございます」
まさか無理に購入を決断しなくてもいい、と言ってもらえるなんて。
私は、なんだか夢見心地な気分でカーサミア不動産をあとにした。
どきどき。
わくわく。
家を買うかもしれない、という未来を想像しながら、家路に着く。
心地良くて、楽しい胸の高鳴り。
……これってなんだか、新しいジャンルにハマったときみたいなテンションだ!!
藤吉夕美、29歳。
独身。
年収は約340万円。
毎月の手取りは20万円。
ボーナスは10~20万(変動あり)
学生時代から現在まで神奈川県日吉にあるロフト付きの1Kに住んでいる……が、ロフトはすでに雑貨とグッズ・同人誌のコレクションとでパンク寸前。生活スペースにまで侵食がはじまって久しい。
家賃は7.7万円、月の貯蓄額は……ギリギリ1万円。
オタクとは、かくも金のかかる生き物である。
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