この連載は、「一人暮らしで趣味を満喫しているオタク女子(そして腐女子)が家を買ったら……?」という物語を描く、1話5分のほっこりwebノベルです。
「家を買ったときの話、身近な友達には聞きにくい……」そんな疑問が解決するかも!
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カーサミアクラブ。
親友のずにさんから紹介してもらった。女性の一人暮らしを応援するというコンセプトで、セミナーや相談会を行なっているサイトだ。
……でも、家を探すなんていう大きなことも同じサイトでできるのだろうか?
他にもいくつか不動産屋さんやマンションのサイトをいくつか見たけれど、すごく簡素だったり、「●●エリアに威風堂々の完成!」みたいなとっても大げさな文言ばっかり目立っていて、よく分からなかった。
そのなかでもカーサミアクラブのサイトはすこし変わっていて、物件や街ではなくて「暮らし」についてのエッセイや情報紹介がたくさん載っている。
可愛くって、おしゃれなデザインだなぁと思った。
ひとりでも のびのび暮らす 家とお金の相談室「カーサミアクラブ」
という文言が目に飛び込んだ。
「ふぅん、不動産屋さんというわけではないんだな」
一人暮らし女性むけに、お金の相談会やセミナーみたいなこともやっているっぽい。
ふむふむ、不動産の専門店じゃないほうが、かえって信用できるような気がする……かも?
よーし、じゃあ、思い切って、相談予約をしちゃおうかな。
あ、でも、次の土日はインテ(※インテックス大阪というで行われる、大型の同人イベント。たのしい)があるから、その次の週で!
* * *
「は、はじめまして」
「はじめまして、藤吉さん」
ニカッと輝くような笑顔の、女の人が出てきた。
たとえるなら、主人公の行きつけの酒場の格好いい女店主って感じだ。
「吉村と申します。どうぞよろしくお願いいたします!」
とっても明るくて、キビキビした人だ。 背筋がしゃんと伸びていて、真っ直ぐに私を見つめてくる。
か、か、かっこういい!
「あの、すみません。すごくフンワリした問い合わせで」
私が問い合わせした内容は、こうだ。
マンションを買おうか、どうしようか、とても迷っています。お話だけでも聞かせてください。
ものすごく、フンワリ!!
ちょっとしたパンケーキだってこんなにフンワリしてないよ。
でも、吉村さんは言った。
「いえいえ、とんでもない! 逆に嬉しいです。藤吉さんが一緒にどんな暮らしがしたいのかを考えさせてください」
「どんな暮らしが、したいのか」
びっくりしてしまった。
どんな暮らしがしたいのか、か。
家を買うことじゃなくて、家を買って、「どんな暮らしがしたいか」――か。
そんな視点で問いかけてくれるなんて、驚いてしまった。
「……そ、そうですね。実は、私はこう、本とか物を集めるのが大好きで、その……漫画とか、アニメとか」
「漫画とかアニメ! それ、私の知らない世界です……あの、良かったら詳しく教えてください」
「えっ!」
ぴかぴか光ってるような、格好いい女性。
どうやら聞けば、学生時代からずっとスポーツをしていたのだそう。
そういう人は、漫画とかアニメとかいうと「へぇ〜」と気のない返事をするくらいで、興味を持つことなんてほとんどない。
吉村さんは、違った。
私はなんだか嬉しくなってしまって、
「あの、実は……仲のいい友達が、品川に家を買って。よかったら近くに住めたら楽しいなって。あ、あ、これは夢物語なんですけどね。あとあと、収納がたっくさんある家に住みたいなって、ずっと思っていて!」
自然と、私の「理想の暮らし」があふれ出てくる。
前の不動産屋さんでは感じることのできなかった、「ドキドキ」や「ワクワク」を感じながらお話が弾んだ。
無理やり購入する方向に話が進んだら嫌だな……という気持ちは拭えないけれど。
なんとなく、カーサミアならそんなことにはならないんじゃないかな。
うんうん、と楽しそうに話を聞いてくれる吉村さんのことを、私はすっかり信頼していた。
藤吉夕美、29歳。
独身。
年収は約340万円。
毎月の手取りは20万円。
ボーナスは10~20万(変動あり)
学生時代から現在まで神奈川県日吉にあるロフト付きの1Kに住んでいる……が、ロフトはすでに雑貨とグッズ・同人誌のコレクションとでパンク寸前。生活スペースにまで侵食がはじまって久しい。
家賃は7.7万円、月の貯蓄額は……ギリギリ1万円。
オタクとは、かくも金のかかる生き物である。
次回「5話 腐女子、カーサミアクラブに行く ~STEP2、内見に行こう!~ 」
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