この連載は、「一人暮らしで趣味を満喫しているオタク女子(そして腐女子)が家を買ったら……?」という物語を描く、1話5分のほっこりwebノベルです。
「家を買ったときの話、身近な友達には聞きにくい……」そんな疑問が解決するかも!
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品川駅。
JR中央改札の時計の下で、ずにさんが大きく手を振っていた。
「おーーい、トウキチちゃん。こっちこっち」
「ずにさん、お待たせしちゃいました!」
「大丈夫。気にしないでなぁ。あ、今日は泊ってくよね?」
ずにさんは、私より少し年上のオタク友達で親友。
そして、家を買った女としての先輩だ。
京都出身の柔らかい口調と、ほわほわした見た目が可愛らしい……けれど、それに反して(話を聞くに)仕事がめちゃくちゃできるタイプである。趣味にも博識、語学も堪能。
私の、憧れの女性だ。
「そこのデリカで、おつまみ買ってこ。それと、アンミラで甘いパイも買おうよぉ」
「アンミラ?」
「アンナミラーズ。あそこのパイは絶品」
「さすが品川……っ、おいしいものが沢山……セレブ!」
「あはは。最近は、ほら、大きい買い物したしさすがに節約してるんよ? でも、今日はトウキチちゃんが来るから特別」
特別。
なんだか、ほんとに……くすぐったいな。ずにさんの言葉は。
* * *
「って、えええ~~!?」
ずにさんの部屋に入って、その瞬間、叫んだ。
前回、引っ越してまもなくだった家に遊びに来た際にはなかったものが、リビングに出現していたのだ。
それは。
「じゃーん。ホームシアターで~す!」
「わあああ、ホームシアターだああぁあ!」
大きい壁に取り付けられたスクリーン。
単焦点のプロジェクター、両脇に設置された光沢のある木材で飾られたスピーカー。
そう。
オタクの憧れ、ホームシアターが設置されていたのだ!
「ふふふ~、驚いた? 知り合いが機材を色々ゆずってくれるってことになったんよ」
「すっごい! 大画面で推しが見放題じゃないですかっ!」
「そうなんよっ! こないだのステの円盤(※ステージ=舞台のDVD、という意味)の鑑賞会しよっ!」
「するーー!!」
やったー! とはしゃいでいる間に、テーブルの上にはあれこれ一緒に選んだデリと甘いパイが並んでいた。
ワイングラスに入っているのは、こってり濃い葡萄ジュース。ずにさんは、お酒はあまり飲まないタイプだ。そのかわり、ずにさんの選ぶノンアルコールのドリンクはどれもとっても美味しい。
おいしい食事とジュースをお供にして、きゃあきゃあ歓声をあげながらの鑑賞会はものすごく楽しかった。
だから、ふと……食後の紅茶を飲みながら、お悩み相談をしてしまったのだ。
「迷ってる、かぁ」
「うん。そうなんです。実際に内見とか言ってみたら、実際に自分が家を買えるのかなとか、お金大丈夫かなとか、……なんだか迷っちゃって」
「うんうん」
「ずにさんなら、こんなウジウジ悩まないのになって思ったら、なんか情けなくて」
「へ? いやいや、ウチもめっちゃ迷ったよ?」
「えっ」
「普通迷うよ。当たり前やん。さすがに大きい買い物やし」
「ずにさんも、迷うんだ……」
「ウチのこと何だと思ってるのっ!」
あはは、と笑いあう。
そっか。
迷うのは、当たり前。
「それに、カーサミア不動産だっけ? 話聞くかぎり、すごい良心的だと思う。羨ましいくらい」
「ほんとですか!?」
「ほんと。正直、けっこうテキトーに探したURLだったんやけど……」
「ちょ、え、適当だったんです? ずにさんが探してくれたサイトだ~って思ってたのに……!」
「あはは。まあ、うん。ご縁ってやつよぉ。とにかく、カーサミア不動産ってとこと、い~っぱい相談してるみたいやし……トウキチちゃんなら、好きな家買っていいと思う。仕事もがんばってるし」
「そ、そっか……」
背中を、押してもらった。
私はすっかり嬉しくなって――明日、「家、買います!」という電話をしようと心に決めた。
あの、けっこう気に入っている物件なら、ずにさんの家にも近いし。
* * *
――けれども。
次の日、私は膝から崩れ落ちた。
「う、売れちゃったんですか~~~~~!?」
カーサミア不動産の吉村さんが、残念そうに告げた。
「そうですね……昨日のうちに」
この間の物件は、もう売れてしまった……と。
なんてこった。
ああ、ああ。
何度経験しても、「今回はチケットをご用意できませんでした」(※チケットが外れたときのサイトの常套句!)というのは、やっぱり悲しいものだ。
悔しい!
「でも、こんなに悔しいってことは……、やっぱり私、家が欲しいんだな」
*** TIPS ***
人気の物件は、まさに「早い者勝ち」。実際、早い場合だと、内見に行った3日後には売れてしまっていることも……。
焦って購入を決めるのはよくないことですが、あまりゆっくりしてもいられません。
今回のトウキチさんの内見は「実際にどんな物件が買えるのかな?」という様子見の部分もありましたが、購入を前提にしている場合は、なるべく早い意思決定と、そのための事前の条件整理が大切です。
腐女子でオタクの藤吉さんの場合、大切にしたい条件は
・品川駅に近い
(親友のずにさんと遊びやすい・新幹線も使える・コミケの行われる国際展示場駅にも出やすくオタ活によい立地!)
・収納が大きい
(グッズや書籍の収集が趣味なので)
・壁が広い
(ポスターを貼りたいため)
などでしたね。
アナタの「ここは絶対に譲りたくない」というこだわりは、小さなことでも事前に不動産会社にお伝えくださいね!
それにあわせて、提案の精度も変わってくるものです!
次回「10話 腐女子、決心する。」
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