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【腐女子、家を買う。】9話 腐女子、買い逃す。

連載|腐女子、家を買う
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この連載は、「一人暮らしで趣味を満喫しているオタク女子(そして腐女子)が家を買ったら……?」という物語を描く、1話5分のほっこりwebノベルです。

「家を買ったときの話、身近な友達には聞きにくい……」そんな疑問が解決するかも!

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 品川駅。
 JR中央改札の時計の下で、ずにさんが大きく手を振っていた。


「おーーい、トウキチちゃん。こっちこっち」

「ずにさん、お待たせしちゃいました!」

「大丈夫。気にしないでなぁ。あ、今日は泊ってくよね?」


 ずにさんは、私より少し年上のオタク友達で親友。
 そして、家を買った女としての先輩だ。

 京都出身の柔らかい口調と、ほわほわした見た目が可愛らしい……けれど、それに反して(話を聞くに)仕事がめちゃくちゃできるタイプである。趣味にも博識、語学も堪能。

 私の、憧れの女性だ。


「そこのデリカで、おつまみ買ってこ。それと、アンミラで甘いパイも買おうよぉ」

「アンミラ?」

「アンナミラーズ。あそこのパイは絶品」

「さすが品川……っ、おいしいものが沢山……セレブ!」

「あはは。最近は、ほら、大きい買い物したしさすがに節約してるんよ? でも、今日はトウキチちゃんが来るから特別」


 特別。
 なんだか、ほんとに……くすぐったいな。ずにさんの言葉は。


   * * *


「って、えええ~~!?」


 ずにさんの部屋に入って、その瞬間、叫んだ。

 前回、引っ越してまもなくだった家に遊びに来た際にはなかったものが、リビングに出現していたのだ。
 それは。


「じゃーん。ホームシアターで~す!」

「わあああ、ホームシアターだああぁあ!」


 大きい壁に取り付けられたスクリーン。
 単焦点のプロジェクター、両脇に設置された光沢のある木材で飾られたスピーカー。

 そう。
 オタクの憧れ、ホームシアターが設置されていたのだ!


「ふふふ~、驚いた? 知り合いが機材を色々ゆずってくれるってことになったんよ」

「すっごい! 大画面で推しが見放題じゃないですかっ!」

「そうなんよっ! こないだのステの円盤(※ステージ=舞台のDVD、という意味)の鑑賞会しよっ!」

「するーー!!」


 やったー! とはしゃいでいる間に、テーブルの上にはあれこれ一緒に選んだデリと甘いパイが並んでいた。
 ワイングラスに入っているのは、こってり濃い葡萄ジュース。ずにさんは、お酒はあまり飲まないタイプだ。そのかわり、ずにさんの選ぶノンアルコールのドリンクはどれもとっても美味しい。

 おいしい食事とジュースをお供にして、きゃあきゃあ歓声をあげながらの鑑賞会はものすごく楽しかった。
 だから、ふと……食後の紅茶を飲みながら、お悩み相談をしてしまったのだ。


「迷ってる、かぁ」

「うん。そうなんです。実際に内見とか言ってみたら、実際に自分が家を買えるのかなとか、お金大丈夫かなとか、……なんだか迷っちゃって」

「うんうん」

「ずにさんなら、こんなウジウジ悩まないのになって思ったら、なんか情けなくて」

「へ? いやいや、ウチもめっちゃ迷ったよ?」

「えっ」

「普通迷うよ。当たり前やん。さすがに大きい買い物やし」

「ずにさんも、迷うんだ……」

「ウチのこと何だと思ってるのっ!」


 あはは、と笑いあう。
 そっか。
 迷うのは、当たり前。


「それに、カーサミア不動産だっけ? 話聞くかぎり、すごい良心的だと思う。羨ましいくらい」

「ほんとですか!?」

「ほんと。正直、けっこうテキトーに探したURLだったんやけど……」

「ちょ、え、適当だったんです? ずにさんが探してくれたサイトだ~って思ってたのに……!」

「あはは。まあ、うん。ご縁ってやつよぉ。とにかく、カーサミア不動産ってとこと、い~っぱい相談してるみたいやし……トウキチちゃんなら、好きな家買っていいと思う。仕事もがんばってるし」

「そ、そっか……」


 背中を、押してもらった。
 私はすっかり嬉しくなって――明日、「家、買います!」という電話をしようと心に決めた。
 あの、けっこう気に入っている物件なら、ずにさんの家にも近いし。


   * * *


 ――けれども。
 次の日、私は膝から崩れ落ちた。


「う、売れちゃったんですか~~~~~!?」

 カーサミア不動産の吉村さんが、残念そうに告げた。

「そうですね……昨日のうちに」

 この間の物件は、もう売れてしまった……と。
 なんてこった。

 ああ、ああ。
 何度経験しても、「今回はチケットをご用意できませんでした」(※チケットが外れたときのサイトの常套句!)というのは、やっぱり悲しいものだ。
 悔しい!


「でも、こんなに悔しいってことは……、やっぱり私、家が欲しいんだな」

「カーサミア不動産」は架空の不動産会社です。

*** TIPS ***

人気の物件は、まさに「早い者勝ち」。実際、早い場合だと、内見に行った3日後には売れてしまっていることも……。

焦って購入を決めるのはよくないことですが、あまりゆっくりしてもいられません。

今回のトウキチさんの内見は「実際にどんな物件が買えるのかな?」という様子見の部分もありましたが、購入を前提にしている場合は、なるべく早い意思決定と、そのための事前の条件整理が大切です。


腐女子でオタクの藤吉さんの場合、大切にしたい条件は

・品川駅に近い
(親友のずにさんと遊びやすい・新幹線も使える・コミケの行われる国際展示場駅にも出やすくオタ活によい立地!)
・収納が大きい
(グッズや書籍の収集が趣味なので)
・壁が広い
(ポスターを貼りたいため)
などでしたね。

アナタの「ここは絶対に譲りたくない」というこだわりは、小さなことでも事前に不動産会社にお伝えくださいね!
それにあわせて、提案の精度も変わってくるものです!

次回「10話 腐女子、決心する。

毎週水曜・土曜更新!

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