この連載は、「一人暮らしで趣味を満喫しているオタク女子(そして腐女子)が家を買ったら……?」という物語を描く、1話5分のほっこりwebノベルです。
「家を買ったときの話、身近な友達には聞きにくい……」そんな疑問が解決するかも!
> この連載を最初から読む
次の休みに、私は不動産屋に行った。
とりあえずは近所の不動産屋さんに行ってみようと思ったのだ。
サイトに問い合わせるの、なんだか勇気がいるし。
どきどき、と心臓が高鳴る。
不動産屋に来ること自体、本当に久しぶりだ。大学入学以来だから……うっ、考えたくない。
「あのー……すみません……」
控え目に声をかけると、奥のパーテーションからちょっとイカツイお兄さんが怪訝な顔でのそのそと出てきた。
「何かご用でしょうか」
「あ、はい、その……引っ越しをしたくて」
キラーン、とお兄さんの目が光った。
あれよあれよという間に、椅子に座らされる私。
向かいに座ったお兄さんに、私は、勇気を出して声をかけた。
「あのっ! じ、実は……購入、も考えていて」
購入、という言葉にお兄さんの目がビカビカーッと光った。
「へぇえ、ご結婚ですか!」
「え?」
「いや、物件購入ということでしたので、ご主人がいらっしゃるのかなと」
「……そういうわけじゃないです」
私のどきどきわくわく膨らんでいた心は、しゅんと萎んだ。
えええ……やっぱり、結婚してないのに家を買うのって、変なのかな。
「そうでしたか、失礼しました。今は、女性がマンション買われることも増えてますもんね、すみません!」
しょんぼりしている私に、不動産屋のお兄さんはちょっと焦っているけれど、もうあとの祭である。
個人情報を書いたアンケート用紙を渡すと、お兄さんが矢継ぎ早に質問を繰り出してきた。
「どの物件がご希望ですか? マンション名とか、ブランドとか。インターネットとかでご覧になったのでは」
「えっ!? いや、その、……ちょっと思い立っただけなので、まだぜんぜん」
「そうですか……じゃあ、好きなの選んでいただいて!」
「へ?」
ぽん、と渡されたのはタブレット。
どうやら、そこの表示されている物件の中から、好きな家を選んで……ということらしい。
えええ、そんないきなり!
選べないから相談に乗って欲しいのに!
適当にスワイプするけれど、そもそも画面に映し出されている情報の、何をどう見ていいのかわからなかった。それに――
4300万円。
3600万円。
……5200万円!?
「や、やっぱり……高いんですね……」
とてもじゃないけれど、私に買えるとは思えない家ばかりだった。
年収350万円だよ、こっちは!
うーん、うーん、と唸っていると、イカツイお兄さんは目に見えてイライラしはじめた。
ちらりちらりと、なんだか高そうな腕時計を気にしている。
「すみません、次のお客様とのお約束がありまして」
「えっ、あ、はい」
そっかあ、と再びしょんぼり。
結局、何にも決まらなかったなあ。
タブレットを差し出しながら、最後にひとつだけ質問をしてみた。
「えっと、買うのと借りるのってどっちがいいと思いますか!」
「買う場合は、だいたい、年収の5倍から6倍に頭金を足したものが予算になりますね」
し、質問に答えてよ!!!
* * *
「うう……疲れた……なんかすっごい怖かったし」
不動産屋さんでのしょんぼりモードを引きずったままちょっとTwitterしていたら、時間が溶けた。
もう休日が終わってしまう。
ベッドにゴロリと横になったままスマホを取り出した。
なんとなく、今日のことで引っ越しを諦めるのは悔しい気がするのだ。
「……えっと、『ずにさん、こないだはありがとうございましたー! あの、ちなみに、買ったお家ってどうやって探したんですか? ちょっと興味あって』」
ずにさんへのメッセージ。
返信はすぐに帰ってきた。
『お! You 家買っちゃう!? 大手の不動産屋さんでお願いしたんだけど、、、んー。。。色々、見て回ったほうがいいかも。こういうのあったよ!』
……ふむ。
ずにさんが送ってくれたいくつかのURLは、すべて不動産屋のサイトみたいだ。
とりあえず、一番上にあったURLをクリック。
画面にあらわれたのは、全然知らないサイトだった。
「……ん。カーサ……ミア?」
カーサミア不動産。
それが、サイトの名前だった。
次回「4話 腐女子、カーサミア不動産に行く ~STEP1、実際に行ってみよう!~ 」
毎週水曜・土曜更新!