この連載は、「一人暮らしで趣味を満喫しているオタク女子(そして腐女子)が家を買ったら……?」という物語を描く、1話5分のほっこりwebノベルです。
「家を買ったときの話、身近な友達には聞きにくい……」そんな疑問が解決するかも!
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「実は、ほかの不動産屋さんにも行ってみたんですよね」
内見に向かう途中、ふと私はそんな話をふってみた。
カーサミア不動産の担当・吉村さんは「そうなんですね」と、返事をしてくれた。
吉村さんが格好良く履きこなしたパンプスが、アスファルトをカツカツと叩いている。
ほかの不動産屋さんは車でブンッと現地まで連れて行ってくれた。
楽ちんだったけれど、ちょっと大柄な男性と車内で二人っきりというのはちょっと緊張した(いや、何もないのはわかってるけど!)。
カーサミア不動産の内見は、最寄り駅で待ち合わせをして徒歩で内見に向かうということだった。
「こうやって歩いて内見に行くの、なんだか新鮮ですね」
「はい。そのほうが最寄駅からの街並みとか、距離感とか、そういった情報もちゃんとご提示できるので」
と、吉村さん。
なるほど、たしかにそうだ。
「毎日歩く道、って考えたら、一度はちゃんと歩いてみたいです……実際、私は車持ってないですし!」
「ええ。都市部でひとり暮らしだと、基本は電車移動ですからね。維持費もバカになりませんし」
普通ならここで、「この物件が一番いいですよ!」とか、そんなトークが始まるけれど吉村さんは何も言わなかった。
そんな心地の良い沈黙につられて、口が軽くなってしまう。
「えっと、物件を買おうかなって思ったのは、すっごく憧れている友達がいて。その、趣味の友達……なんですけど、趣味以外でも一緒に遊ぶことが多くて」
「気が合うんですね」
「そうなんです。趣味のことも詳しくて、仕事もたぶんすごくできて、尊敬している友達なんです」
梓さんこと、ハンドルネーム「ずにさん」のことだ。
年上で、仕事ができて、博識で……本当に、私にはもったいないくらいの最高の友達だ。
「その子が最近品川に家を買って……彼女もけっこう色々な不動産屋さんを回ったらしかったんですよね」
「うんうん、納得するのが一番ですからね」
「それで、私も色々と回ってみたんですが……」
ですが。ですが。ですが。
……正直言って、かなり厳しかった。
内見中も、私がちょっとでも家を褒めると「すぐ購入しましょう!」みたいなテンションだったし。なんかいいことしか言わなし。あと、なんか全然希望と違う物件の紹介とかされちゃったし! 希望のエリアからめっちゃ離れてるし! あの時間があったら、行きたかった映画に行ったり、家で今期撮りためてるアニメとか観れたりしたんですけどっ!?
担当者さんが屈強な男性だったから、文句も言えなくてフェイドアウトしてしまったなあ……。
っていうか、あのとき見せてもらったいい感じのリノベーションマンション、あとで調べたら浸水予測のあるエリアに建ってるやつだったし……。ちゃんと説明してもらえなかった。
「ずにさんなら、もっと上手くやれたのかもですけど」
ずにさんは、大規模オフ会や大規模あわせ(※テーマを決めて複数人でコスプレをすることを「あわせ」というのだ)もきっちり仕切りができる人だし、ハマってるジャンルの公演が海外であるなら迷わず一人で弾丸海外旅行に飛び出すタイプの人だ。
きっと、不動産屋さんとのやりとりや交渉もすごく上手くやったんだろうな。
でも、私には……。
「藤吉さんのせいじゃないですよ」
しょぼ、と落ち込みかけていた私に、吉村さんが声をかけてくれた。
はっとした。
私のせいじゃ、ない。
「私は……というか、カーサミア不動産は藤吉さんに『いい物件』を選んでいただく以上に、『選ぶための知識』を身につけてほしいと思っています」
「選ぶための、知識」
「先日お見せした『おすすめ度スコア』もそうですが、間取りのチェックポイントや、リフォームで変えられるものや変えられないもの……それから、その物件がきちんと管理されているものかどうか、将来的に売ったり貸したりして資産を現金化しやすい物件かどうか。
賃貸では特に気にしなくていいポイントでも、藤吉さんの資産として購入するとなれば、知っておいた方がいいことやこだわりたいことは沢山あるんですよ」
「お、おお……正直、頭がパンクしそうです」
「あはは。大丈夫ですよ、しっかり納得していただきながら選びましょう。それに、お忙しいようなら私たちが写真を撮ってきたりもできますので」
「ええ!?」
思わず、クソデカボイスで叫んでしまった。私が家にいながら、カーサミア不動産の方が内見に行って写真をとってきてくださるって……コミケで言うなら買い子(※同人誌即売会で、出展している人の代わりに買い物をしてくれる人。ひとり当たりの購入点数制限のある同人誌もあるので注意!)じゃん!!!!
そんな至れり尽くせりなこと、ある!?
さらりと明かされた爆弾発言に目を丸くしていると、
さらりと明かされた爆弾発言に目を丸くしていると、
「このあいだ、『帰宅時間帯の道の暗さを調べてほしい』っていうご要望で調査に行ったこともありますよ」
「ええ!?」
さらにビックリな情報! なんて、親切なんだ……(愕然)。
「あの、藤吉さん」
「は、はい」
「家を買うのって、すごく楽しいことですよ」
「楽しい……」
「大きな買い物ですから、迷うことはたくさんあると思います。でも、悩んだ方がいいんです。後悔がないように。その悩むのも含めて、家を買うのって楽しいと思っています」
プロの言葉だ、と思った。
それも、ただ「生計を立てるためにやっている」のではなくて、本気でその仕事に取り組んでいる人の言葉だと思った。
「そっか、楽しんでいいんですよね」
「ええ、もちろん!」
そうだ。
楽しもう。
だって、金額は大きいけれど、これは「買い物」なんだから。
……たしかに、推しのグッズ買ってるときって楽しいもんな!
*** TIPS ***
一般的な不動産屋さんでは、デメリットやリスクを最初に説明してくれないことも……。
なぜなら、不動産屋さんは売買取引のプロですが、土地や建物そのもののプロではないから。たとえば土地の防災面について、詳しく聞かれた場合は調べて回答してくれるでしょう。けれどもこちらから質問しなければ、担当者は知らないので説明することができません。
もちろん法律で説明することが定められている部分については、契約時には必ず説明されます。(参考→重要事項説明)
しかし法律で定められていない部分に関しては、買う側が 『いい物件を選ぶための知識』を身につけておく必要があります。
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いい物件を選ぶために、必要な知識はたくさんあります。
一番覚えておいてほしいのは
優先順位は、
立地>|越えられない壁|>建物>>>>内装
ということ。
物件選びとなると内装(間取り・設備など)を一番に気にする方が多いですが、大切なのは立地です。
極論を言えば、いい物件=いい立地。
立地が悪ければ、どんなに新しくて・広くて・安い部屋でも、カーサミアではおすすめと考えません。
なぜなら、立地は、自分では絶対に変えることができない部分だから。
カーサミアでは『いい立地を選ぶための知識』をみなさんに共有するため、このウェブメディアや物件採点ツールを運営しています。
弊社はマンションを開発・販売してきた歴史がありますが、いま現在は、マンション販売を行っていません。ここで知識を身につけてもらったあとは、他社から物件紹介を受けて、安心して住めるマンションを選んでいただきたいと思っています。
知識を持ったうえで自分で選んだ物件なら、きっと、のびのびと楽しく暮らすことができますから!
次回「8話 腐女子、悩む。」
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