この連載は、実家暮らしをしている新卒2年目の20代女子が、一人暮らしへの憧れから「オトナ女子のよりよい暮らし」を求めて部屋選びをする という、1話5分のあるある満載のwebノベルです。
「そろそろ一人暮らししたいな」と考え始めたあなた…!一人暮らしする前の準備を整えやすくなるかもしれませんよ!
> この連載を最初から読む
著:蛙田アメコ / イラスト:八咲ヒサ
「ど、どきどきする……!」
今日は、早番。
18時に仕事を切り上げて、やってきたのは都内某所。
職場からほど近い、住宅街が広がる小さな駅――。
そう、内見である。
「あ、家村さん……ですか?」
「あっ! アルアル不動産の田中さんですか! お問い合わせさせていただいた家村琴美です、今日はよろしくお願いいたします!」
「はい、よろしくお願いいたします~」
駅前に立っていたスーツ姿の女性。
黒髪を伸ばして、しゅっとしたスーツを着こなしている。
私より、すこし年上の女性だ。
「不動産というと男性が多いんですが、うちはなるべく女性のお客様には女性スタッフが対応するようにしているんです~」
なるほど、安心だ。
「最近は、テレ内見っていうんですかね。スマホやPCで内見をされて、そのまま決めるというケースも増えてはいるんですが……やっぱり”空気感”とか”匂い”みたいなものって、現地じゃなきゃ伝わらない部分ですよね」
「なるほど……!」
「お引っ越し、初めてですか?」
「そうなんですっ、もう社会人だしって思って!」
「そうなんですね! 今日の物件はかなり破格なんですよ、大家さんのご厚意で若い方向けにはすごくお安くなっていて~」
「ふむふむ!」
駅からの距離。
それも大切な要素だということで、田中さんと一緒に徒歩で内見先の部屋に向かうことにした。
「どれくらい時間かかります?」
「今日は1Rですし、長くても5分とか10分くらいですかね。ご希望に沿いそうな物件、いくつか手配してきたのでよければご覧になれますよ」
「わあ、ありがとうございます! 親切!」
「あはは、仕事なので」
夕暮れの町。
大きなドラッグストアに、がやがやと活気のある商店街。
人間が住んでるって感じの町だ!
こんな町で、猫ちゃんと一緒にひとり暮らししたら――とっても素敵だろうなぁ!
* * *
「ふぅ……徒歩20分、けっこう歩きますね」
「あはは、うちの実家に比べたら近いですよー!」
実家、徒歩45分だし。
わりと全力で歩いて。
「駅から遠いのを許容してくださったら、けっこうたくさん物件ありますよ! ペット可の物件をお探しっていうのは、ちょっとネックですけど……」
(あ、もしかして猫ちゃん飼うのって……ハードル高いのかな……)
ちょっと、ドキッとした。
不動産屋さんの「常識」って、意外と知らないものかもしれない。
「さぁ、つきました。電気のブレーカーあげてきますね」
たどり着いたのは、一軒のアパート。
駅から20分ちょっと歩いたところにあって、築年数は30年くらい。
……私よりも年上だ。
家賃がとってもリーズナブルで、都内で同じような物件と比べると2万円ほど安かった。
正直に言えば、悪くなかったらこの家でもいいかな……お金は大事だし……と思っている。
「……あ、意外と広い」
「8畳ありますから、大きい方ですね」
「バストイレも別ですね!」
「ええ、お風呂の形はユニットバスではあるんですが、トイレは別にあります。いいですよね」
「おおお……!」
色々なアプリで物件の情報を見ていて、意外とバスとトイレが別になっている部屋は少ないことに気づいていた。
実家だとお風呂とトイレが別にあるなんて「当然」だと思っていたけど……意外とそうでもないみたい!
これは。
これ、もしかして……私のひとり暮らし、始まっちゃうんじゃない!?
猫ちゃんを飼っていいかどうかは、大家さんに一応交渉してみると田中さん。
これだけ広ければ、彼氏(いまはいない)を呼んでも狭苦しくないし、いや、狭苦しくても逆にいいのかもしれないけど。こう、きゅっとくっつくみたいな感じで!
それで、手作りのクッキーとかクルミたっぷりパウンドケーキを食べさせてあげたり、あとお家居酒屋っていうのかな……手作りのおつまみで一緒にお酒を飲んじゃったりして……『すごい、これぜんぶ琴美ちゃんが作ったんだ! すごいなぁ~好き!』なーんて褒められるやつなのでは!?
「ふふ……ふふふ……えへっ」
「い、家村さん……大丈夫ですか……?」
「はっ! すみません、大丈夫です。あいむおっけー!」
いかん、いかん。
不動産屋さんの前で変なことを口走っていた。
ふと。
あることに気づく。
ここって、台所は……?
「あの、流しはあるみたいなんですが、台所ってないんですか?」
「あ、そこが台所ですね」
「え?」
くるり、と振り返る。
田中さんが指をさしたのは……流し台と一緒に、謎の器具が取り付けられている一角だった。
「これ……もしかしてコンロ……」
「そうですね。たまにあるんですよ、こういうコンロが備え付けられているの。ひとり暮らしだと自炊しない方も多いですし」
そこにあったのは、まるで蚊取り線香みたいな、ぶっとい電熱線の1口コンロ。
いわゆる、給湯室とかにある電熱線コンロだ。
「お、おお……」
想像上の彼氏が囁く。
――え、琴美ちゃんちって電熱線コンロなのウケる給湯室じゃんw ……と。
(いやいや、家賃もすごくリーズナブルで今すぐ引っ越せそうなぐらいにお得だし、猫ちゃんももしかしたら飼えるかもしれないし、広いしバストイレ別だし駅から歩けなくもないし!)
いや。
いやいや、でも!
「……ちょっと、考えさせてください」
電熱線コンロは違う。
どう違うかと言われると明確には言えないけど、違う!
なんか取り外しできなさそうな見た目しているし……!
その日は、とりあえずもう2件ほど内見して帰宅した。
2件は、バストイレ一体型のユニットバスだったり、実家とほぼ変わらないくらいに駅から遠くてバス通勤必至だったり。
これはちょっと……『理想の部屋』を選ぶのって難しいのでは!?
*** TIPS ***
いよいよ始まった家村さんの家探し。
早速、内見に行きました。
不動産アプリで物件探しをして、間取りや写真を見ていても、実際と印象が異なる部分や、気づかなかったところが出てきます。
【キッチンが「電熱線コンロ」だった】のも、その一つですね。
インターネットへの情報掲載量は、この数年で格段に増えていますが、『実際に見ないと分からない』という事実もまだ残っています。
部屋に入ってみて感じることもありますし、その物件の周辺環境や雰囲気もネットだけでは分かりません。賃貸とは言え、一度決めたらなかなか後戻りしにくいのが【不動産】です。何度も引っ越すのはさすがに手間も費用も掛かりすぎます。
そうなると、どんなポイントを押さえて物件探しをすればいいのか、が重要ですね。
カーサミアでは「物件選びのポイント」もご紹介しています。ご参考にどうぞ。
◆アパートとマンションの違い&メリットを女性宅建士が解説!
◆こんな間取りが理想的♡一人暮らし女子のお部屋選び、ココに注目
次回「8話 実家女子、お安い理由を考える~安全と安心も家賃に含まれます!?~」