前編では、女性ばかり9名が主導して、地域の防災・防犯についての啓蒙活動の一環として、大規模な避難訓練を計画しているというグループを取材。
女性ならではの視点で避難訓練をプロデュースし、避難所での性被害対策まで考えて企画したことなど、興味深いお話が聞けました。
今回はその後編。
取材の3日後に行われた実際の避難訓練の様子や、参加者へのアンケート結果、カーサミアの読者のみなさんにも役立つ避難計画を立てやすくするツールについて紹介したいと思います!
取材にご協力いただいた自主防災会「有田防災9」とは
くわしくは前編を読んでみてほしいのですが、あらためて取材にご協力いただいた自主防災会「有田防災9(ナイン)」の概要をまずおさらいしたいと思います。
自主防災会「有田防災9」は、福岡県早良(さわら)区有田校区自治協議会の有志が集まった防災活動を担当するグループ。
有田校区の9名の女性が中心となっていることから「有田防災9」と名付けられました。
地域の防災・防犯についての啓蒙活動の一環として、大規模な避難訓練を行うために昨年(22年)の11月に発足。
“女性目線で、優しく心配りのできる避難所を作りたい” 、“若い世代、子どもたちの世代にまで防災意識を根付かせたい”というねらいで、避難訓練実施に向けて会合を重ね、準備を進めてきました。
それでは、実際に行われた避難訓練について、「有田防災9」のメンバーのBさんにメール取材した内容を紹介します。
実際に行われた避難訓練について
今回、メールでお話を伺ったのはこの方
Bさん
カーサミアの記事を防災訓練に活用しようと、ご連絡くださった方
好きな言葉:自分がしてあげたことは水に流せ、
人にしてもらったことは石に刻め
今回の避難訓練は何名くらいの規模でしたか?
Bさん 当日の参加者は全員で189名。
当初はスタッフを含めて150名を目標にしていたのですが、40名近く増やすことができました。
内訳は、一般参加者、校区(町内会)スタッフ、区役所職員、校区内の介護施設の入居者とスタッフです。
避難訓練当日のプログラム内容を教えてください
Bさん 9時30分に「震度6弱の地震発生」のお知らせを、各町内の拡声スピーカーと青パトから放送。
住民によく聞こえたのは町内放送の方でした。
避難の方法は、10町内のうち5町内が各自避難、残りの5町内が集団避難でやってみました。
避難場所の次郎丸中学校に避難完了するのが10時の予定でしたが、その目標はほぼ達成。
避難所でのイベントは、以下の通りです。
- 10時から避難所として倉庫に置かれている備蓄品についての紹介
- ガソリン発電機を使用した投光器の実演
- 救護用や更衣室に使えるテント(写真)やパーテーションを組み立てた状態で展示
- 担架でケガ人や病人を運ぶ実演
- 備蓄品の見学タイム
- 有田校区のハザードマップを使用しての早良区役所からの防災講座
- 校区内にいる防災士(男性2人、女性2人)によるAEDの操作と心臓マッサージの実技
また、今回の参加記念品として用意したオリジナルエコバッグに、水のペットボトル500ml1本(5年間賞味期限付き)と真空パックの菓子パン、カーサミアの防災記事を転載したプリント、避難所での性被害防止を啓発するプリントとツール、ハザードマップ、AEDの操作方法を書いたプリント、それぞれの家族の避難計画を記入しておく「マイタイムライン」のプリントを入れて配りました。
避難訓練と避難所でのプログラムで、気づいた点や課題はありますか?
各自避難・集団避難、それぞれのメリット・デメリットがある
Bさん 避難訓練は、集団避難の方が時間はかかりました。ただ、避難者をより確実に誘導できるのは集団避難だということがわかりました。
各自避難者は全体としては移動が早かったものの、何人かは集団避難者より集合場所に到着するのが遅くて、少し心配しました。
今後は、各自避難・集団避難、それぞれのメリットを生かしながら、集合場所にほぼ集まった時点で、先発組がまず出発し、遅れている人を後から連れてくる、という形を取ってみるのがよいかもしれません。
棒の付いた担架は使い勝手がよくない
Bさん 担架というと、一般的に棒が2本付いていて要救助者が寝る布を渡しているものを想像すると思います。
ですが今回使ったのは棒の付いていないタイプ。
参加者に寝てもらい、男性6人に担架の布の周りを持ってもらうと、あっという間に持ち上げられました。
棒のある担架は、階段を降りるときなどに棒が邪魔して角を回れないというデメリットがあります。
棒なしの担架でも人が持ち上げられるなら、本物の担架がない場合は毛布で代用できます。
いざというときに毛布を活用するという技を参加者のみなさんに知ってもらえたのはよかったと思います。
AEDの実技は大好評
Bさん 校区内に住んでいる防災士(男性2人、女性2人)の資格を持っている人によるAEDの操作と心臓マッサージの実技は、参加者の皆さん興味を持たれていました。
AEDの使い方を解説するプリントも配布。
駅や公共施設などでAEDを見かける機会は増えましたが、使ったことがない、使い方がわからないという人は多いと思います。
ネット検索でいいので一度AEDについて調べておくことをおすすめします。
これらのほか、避難訓練を実施したからこそわかった課題も
Bさん 避難訓練全体の感想として、公民館と自治協議会と地域が一体となって実施できた点はよかったと思います。
備蓄品は、万が一本当に避難してきたときに、どんな物資が備蓄されているか知ってもらい、誰でもすぐに使えるようにという主旨で展示していました。
ただ、こちらはあまり人が集まりませんでした。
展示しているだけで、説明するスタッフがいなかったせいもあったと考えています。
備蓄品のテントや段ボールで作る簡易ベッドの組み立てを実演すれば、ほかの備蓄ももっと注目されたかもしれないと反省しています。
避難訓練後にアンケート調査を実施されたそうですが、どのような意見・感想がありましたか?
Bさん 以下のような感想を避難訓練の参加者からもらいました。
「災害の備えについていつも考えはしているのですが、実際には備えができていません。今回の避難訓練に参加して、あらためて準備をしようと考えました」
「今回だけでなく機会があれば何度も防災訓練には参加しないと、いざというときの対応ができないと思いました」
「我が家には車イスの娘がいますが、避難が必要なときにちゃんと避難できるかなと考えさせられました」
「これからも年に1回でも防災訓練はしてほしいと思っています。
『共助!』他人事ではないということを個人個人が自覚することが大切だと感じました」
「たくさんの人が集まる=避難するという行動が経験できたということに意義があると思います」
「こうした訓練の継続が必要。小学校、中学校の関係者の参画があればもっとよいです」
「備蓄品の一覧表があると説明がわかりやすくなる」
「子どもたちを参加させる意義を感じました」
「サービス付高齢者向け住宅で仕事をしているため、防災に対する意識を強めていきたいと常日頃から考えています。本日の講話・講習は非常に為になりました」
「地域のつながりの大事さを実感しました」
アンケート結果から見えた今後の課題は?
Bさん 地域のつながりの大事さ、子どもたちの参加に意義あるといった声は、今回の避難訓練のテーマに沿っているのでうれしかったです。
“女性ならではの目線で、優しく心配りのできる避難所を開設したかった”というテーマについては、女性向けの避難所で役立つ性被害に備えるツールを配布(前編参照)できました。
しかし、参加者の反応はいま一つで、「女性目線の避難所」はまだ今後の課題になりそうです。
また、避難の困難な車いすの方やペットの避難の方法なども、今後の課題として考えていきたいと思っています。
みんなに役立つ防災ツールについて
カーサミアの読者も使える防災ツール・資料があればご紹介ください
Bさん 先述したオリジナルのトートバックに入れたプリントのうち、“マイタイムライン”はカーサミア読者のみなさんにも役立つと思います。
それぞれの家族構成や緊急連絡先、自宅のある場所の危険度、避難先、防災・避難情報の入手方法、非常時の持ち出し品のチェックリストなどが、一枚のプリントにまとめられるようになっていて、災害が起こってから慌てないように自分用の避難計画が立てられます。
一人暮らしだからこそ、いざというときに慌てないように避難計画を立てておけますね。
もし家族の近くで一人暮らしをしている人なら、どのタイミングで実家を手助けしに行くのか、相談しておくこともできそうです。
よかったらプリントアウトして使ってみてくださいね!
PDFダウンロードはこちら
メール取材を終えて、編集部から
前編でも紹介しましたが、福岡市早良区有田校区は人気の住宅地であり、人の入れ替わりが進んでいるので、近所にどういう人が住んでいるか、みんなが把握しているわけではないとのことでした。
都市部で一人暮らしの女性の場合は、もっと地域住民との関わりを持つことが少ないかもれません。
しかし、万が一の大規模災害の際は、住民同士のつながりが重要。
地域住民同士が助け合う「共助」がないと、大規模な避難は困難です。
いざという災害時に「共助」ができるように、普段から近所のお店の人と挨拶を交わしたり、地域のイベントなどに参加したりして、少しでも地域住民とのつながりを持っておくことを考えてみてはいかがでしょうか。
カーサミアの読者のみなさんがお住まいの地域でも、各自治体などが主催する避難訓練は開催されていると思います。「○○市 避難訓練」などで検索してみてください。
ぜひ一度、ご自身の近所でいつ、どんな避難訓練があるか調べて、参加してみることをおすすめします。
地域との繋がりの持ちながら暮らしている女性たちのエピソードはこちらです。
タウン誌を見てイベントに参加したり、お気に入りのカフェの常連さんと仲良くなったり…参考にしてみてくださいね。