近年、地震や豪雨などへの備えの重要性が高まっています。
株式会社トラスト・ファイブは、東京の城南・城西エリアを中心に小規模商業ビル・コレタスシリーズを開発していますが、コレタスではどのような災害対策を考えているのでしょうか。
今回は、コレタスシリーズの企画・開発を担当する佐野武揚に、コレタスシリーズに共通する災害対策の考え方について語ってもらいました。聞き手は防災士の古島真子(まこぴ)さんです。
佐野武揚
株式会社トラスト・ファイブ 一級建築士
2023年入社。土地の仕入れ・企画段階から計画に携わり、コンセプト立案、設計事務所・ゼネコンの統括、全体管理までを担う。
フランスへの建築留学で学んだ、ひとりで答えを決めるより、様々な人とディスカッションを重ねながらプロジェクトをつくる手法を大切にしている。
目指すのは、少し尖った、新しい時代の潮流をつくるような「好きになってもらえる、カッコイイ建物」。
災害対策の大前提となる「建築基準法」と「消防法」
古島/東京の都心部の小さな商業ビルの開発をされているということですが、「防災」というテーマではどんなことを重視しているか伺いたいと思います。
佐野/まず大前提として、「建築基準法」と「消防法」、この2つの法律を遵守する必要があります。
人命に関わる被害を生じさせないよう、建物を倒壊させないための法律が建築基準法で、それに加えて万が一の何か災害があったときに避難がしっかりできるようにする、また火災の発生を抑制するための法律が消防法。
例えば建築基準法だけクリアしても、消防側からの同意を得られないと建物を建てられません。
この2つの法律は必ず守らなければなりません。
さらに、法律ではないですが各自治体から出されている建物の防災に関する「要綱」というのもあります。
要綱には雨水の処理能力などの基準が書かれています。
基準は自治体によって変わるため、当社が手がけている小規模商業ビルが必ずしも該当するとは限らないですが、事前に調べて該当する基準については遵守しています。

古島/それは必ずクリアしないといけないんですね。クリアできないとどうなりますか。
佐野/最終的にクリアできないということはないです。
建物を建てるために必要な確認申請では、役所の担当部署に意匠・構造・設備に関して仮申請をして、本申請へと進んでいきます。
事前のやり取りの中で、(建築基準法や消防法、要綱に加え)バリアフリーや景観などについての自治体の条例と照らし合わせて、指摘が入れば手直しして、クリアにしていきます。
段階を踏んでいくので、コレタスの開発においてこれまで本申請でひっくり返されて却下になったことはありません。
小さなビルだからこそ、地盤でリスクヘッジ
古島/法令や自治体の基準以外で、重視していることはありますか?
佐野/コレタスを開発する上でのそもそもの基本方針になりますが、小さなビルこそ土地選び(地盤)でリスクヘッジするのが一番の災害対策だと考えています。
東京だと大きく分けて東側より西側の地盤が強い傾向があります。武蔵野台地という固い地盤があるためです。

そのため、コレタスは東京の西側の台地エリアを中心に開発を行っています。このエリアは高台にあたるため、ハザードマップで浸水エリアが広範囲に及んでいることもありませんし、液状化リスクも比較的低いです。
これはコレタスのような商業ビルを手がける前、マンション開発をしていた頃からの弊社の方針です。

小規模ビルの火災対策:避難経路確保の工夫と、テナント啓発
古島/ビルの災害は主に大きく分けて火災、地震、水害が考えられると思います。
それぞれの災害で、小規模ビル開発において行っている対策を教えてください。
佐野/火災についてですが、建築基準法と消防法を満たすというのが基本的な考え方です。
都内の商業ビルであるコレタスシリーズは、RC造(鉄筋コンクリート造)かS造(鉄骨造)で、防火地域・準防火地域に建てるので基本的には耐火建築物であることが求められます。
まず、この基準を満たす素材を選んで建築することが大前提です。
さらに、コレタスのような小規模商業ビルならではの火災対策もあります。
一定の規模以上の建物のとき、避難用の階段を2つ設ける二方向避難が義務付けられています。
「一定の規模」というのは床面積や階数で定められていて、コレタスの場合は6階以上のときに義務の対象となるのですが、元々狭い土地に建つコレタスで階段を2つ作るとテナントの入居スペースを圧迫してしまいます。
この課題を解決するため、バルコニーを設けて、そこに避難用のハッチを設置している物件もあります。
これは小規模な建物に対する法的に認められている緩和措置で、なるべく広いスペースがいいというテナントの要望と火災対策を両立させる小規模商業ビルならではの工夫と言えます。


古島/テナントビルにバルコニーがあるだけで入居者はうれしいと思いますが、避難にも役立っているんですね。
佐野/さらに言うと、テナントさんへの啓発活動も重要だと考えています。
具体的には、テナントさんの入居に合わせて「消防計画書を出してください」「防火管理者を決めてください」などと声掛けをしています。
竣工時の建物にはちゃんと火災対策ができていても、テナントさんが入ってビルが使われ始めると、天井の火災感知器を塞いでしまったり、避難路に大きな荷物を置きっぱなしにしたりして、いざというときにせっかくの設備が役に立たない可能性もありますから。

小規模ビルの地震対策:使い勝手と耐震強度の両立
古島/次に、だれもが怖いのは地震だと思います。コレタスの地震対策は?
佐野/耐震も建築基準法を満たすのが大前提です。
建築基準法をクリアしていれば震度7でも建物の倒壊はない設計と言えます。
ただ、コレタスはテナントが入るビルなので、単に耐震基準をクリアするだけでなく、お店を営業する入居者が空間を広く使えるように、たとえば5階までのRC造ビルの場合は柱や梁のある「ラーメン構造」ではなく、壁で支える「壁式構造」を採用しています。
住宅の場合は、部屋を仕切る壁に強度を持たせて建物を支えることができますが、テナントビルは入居者の業態やニーズに合わせられるよう、自由度が高い大きな空間が望ましいので、強度を持たせる壁の量は少なくなります。
そのためコレタスでは外壁を厚くすることで十分な強度を確保して、使いやすい空間との両立を実現しています。
これもテナントさんの入居後の使い勝手と耐震強度の両立を考えた方策です。


小規模ビルの水害対策:設備は屋上に、屋上の排水能力にも配慮
古島/コレタスの設計段階では、水害・浸水対策としてどのようなことを行っていますか?
佐野/元々小規模商業ビルは、スペースが限られているため設備類の多くを屋上に置いていました。
すると、図らずもですが地下や1階に設備が集中しているビルより、浸水被害に遭いにくくなります。
ただし屋上も狭いので、必ずしもすべての設備を置くことはできません。
そこで例えば1階と屋上に設備を分散する場合は、外部から引き込んだ電話線やインターネット回線を各部屋や各フロアへ分配するMDF盤やポンプなどは1階に、キュービクル(※)は屋上にというように、ライフラインに直結するかどうかで優先順位を付けて配置しています。
※キュービクル=正式には「キュービクル式高圧受電設備」。発電所から送られてくる高圧の電気をビルなどの施設内で使える低い電圧(100Vや200V)に変圧する機器。

古島/最近は都内でもゲリラ豪雨が心配ですが、新しい対策はありますか。
佐野/コレタスの排水能力について、最近の局地的な豪雨に配慮する工夫をしています。
これまでの排水計画や設計基準では、排水能力が近年の豪雨に対応できなくて、屋上がプール状態になり、雨漏りや屋上設備への浸水につながってしまいかねません。
そこで新しい降雨量のデータを基準にして排水設計をするように、トラスト・ファイブとして仕様書に一定の基準を設けました。
もちろん下水道本管の排水能力にも限界があるので、コレタスの排水能力だけを近年の降雨状況に合わせて高めても絶対大丈夫ということではないですが、ビル側でできることはアップデートしています。

使う側の意識を高めることも、防災対策
古島/そのほかコレタスを建てる上で、災害防止になるような取り組みはありますか。
佐野/直接的な災害対策ではないですが、コレタスがその街のアクセントになるような凝った意匠であることも防災に役立つのではと考えています。
先ほど火災のところで触れましたが、いくら設計段階で防災に配慮していても、テナントさんが入居した後の使い方が悪いと台無しになることも想定されます。
ですがコレタスなら「せっかくデザインされたビルに入居したのだからきれいに使おう。階段などの共用部に置いてはいけないものを置くのはよそう」という意識づけが自然とできやすい。
こういったことも防災につながると思います。
古島/おしゃれな建物だからこそ、結果的に防災にもプラスになるということですね。
使う人の意識や管理が伴っていないと防災効果を最大限に発揮できません。私も使う側がどんなことに注意すべきか、周知・啓発活動にしっかり取り組んでいきたいなと感じました。





