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赤いソファのある、デザイナーズマンションに憧れていた。でも現実は…【一人暮らしエッセイvol.28】

一人暮らしエッセイ
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まさかこれにハマるとは

一体何の影響を受けたのかは覚えていませんが、10代の頃から「将来一人暮らしを始めたらこんな暮らしにしたい」という理想像を作っていました。

港区の高層のデザイナーズマンションの一室で、間接照明を灯し、ジャズを流しながら、赤いソファに座って夜景を眺めて…なんて書いているだけで恥ずかしくなってきましたが、そんな私も社会人になってしばらくしてから一人暮らしをする機会が訪れました。

場所は東京都港区、ではなく地方の港町。
高層マンションではなく職場の宿舎として使われている築40年近いアパート。6畳の1Kでバストイレは一緒。

私の理想像にある赤いソファは、この部屋に合わないことが明らかでした。

そもそも大前提として、私は家事全般の能力がとても低いのです。
かつての私は「大人になったら今できないことも当然にできるようになっている」と思い込み、掃除が行き届きピカピカに磨き上げられたフローリングの上に立つ自分を想像していたのでしょう。

部屋以前に自分自身の現実が、理想とかけ離れていたわけです。
そんな厳しい現実と直面し、理想の部屋作りは、早々に方向転換することにしました。

新しい部屋の中で一目見て気に入ったのは。ベランダに出ると広がる山々と海が織りなす景色でした。海の見える暮らしにも憧れてたもんね、と自分に言い聞かせ一人暮らし開始です。

この一人暮らしによって夢中になった、自分でも意外なものがありました。
料理です。

それまで実家暮らしだった私にとって、家の台所とは母の領域。
生来不器用な私がたまに母の料理を手伝おうものなら、私の手際の悪さに我慢ができなくなった母から台所を追放されることがしょっちゅうでした。

掃除や洗濯は大人になればできると思っていた昔の私ですら、料理をするビジョンだけは全く思い描いていませんでした。

しかし引っ越してきて早々、地域住民の皆さんから「ようこそこんな田舎町へ!」と、歓迎の品として野菜や魚を大量にもらってしまったのです。

「魚はまずは焼くだけでもいいとして、せっかく食事をするならちゃんとご飯と味噌汁も必要だよね。」そう思ったことが私の自炊生活の始まりでした。

後から考えてみれば、その町の農産物や海産物はとても質が高いものだったので、少し手を加えただけでとても美味しい逸品が完成します。

初めての一人暮らしの部屋でインターネットで調べながら初めて作ったのは白いご飯、ワカメのお味噌汁、魚の塩焼き。
一口食べて「あ、美味しい!」と自分しかいないのに声に出していました。

それからしばらく自炊を続けた私は、不慣れながらも料理の楽しさを覚えます。

仕事でもなんでも、色んなことが思いどおりにはなりません。
でも料理は、材料の分量を計ってレシピに沿って進めていけば、期待どおりむしろそれ以上のものができるのです。もちろん大失敗をすることもありますけどね。

その日の料理の反省をし、明日は何を作ろうか、いつかこれを作ってみたいな、と思いを巡らせながら、引っ越す時に母から渡されたレシピ本を夜眺めることがいつしか習慣になりました。

休日には手の込んだものに挑戦したり、平日には作り置きした煮物の味の変化を楽しんだり、たまにはジャンクにインスタントラーメンに野菜を追加してアレンジしたり…。
好きな料理を海と山の景色を眺め自然の中から聞こえる鳥のさえずりをBGMに食べることが、単純だけど私にはとても贅沢に感じられました。

料理の基本も身について、お昼のお弁当作りも手際良くなってきた頃には、新しい仕事場にも慣れ、同じアパートに住む仕事仲間と戴き物の野菜や実家から送られてきた地元の名産品を交換するようになりました。

お礼に調理をしてからそれぞれ一品ずつ持ち寄って小さな食事会をすることも。気付けば料理の中でもハードルが高い揚げ物を「この前美味しかったから」とリクエストされるようになっていたのですから、人生何があるか分かりません。

いま私は、仕事の都合で別の街で一人暮らしをしています。

前よりずっと便利なこの街で、高層ではないけどお洒落なデザイナーズマンションを見つけることができました。相変わらず掃除は苦手で、洗濯も最低限のことしかできていませんが。

先日、いつか新しい我が家にお迎えしたいと思っている赤いソファをウインドウショッピングで見つけました。
でも、今は、今日の献立を考えることが楽しいのです。

(エッセイ投稿者:ヨネキダ アン/30代・女性)

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