「一人暮らし女性のおうちライフを快適に!」がテーマのライフスタイルマガジン「カーサミア」では、一人暮らしに関するエッセイを公開しています。
ありがとう、管理人のおばちゃん
社会人として一人暮らしを始めて、2年が経ったころのことです。
私は、50代の女性管理人が常駐するマンションの3階に住んでいました。
管理人さんは、おまんじゅうを持ってきてくれたり、部屋に遊びに来てくれたり、一人暮らしの私を何かと気遣ってくれる「おばちゃん」といった存在でした。
マンションの家賃はリーズナブルで、駅から近く、スーパーもあり、新人社会人でずぼらな私には最高の物件でした。
ところが、ある時から会社の経営状況が傾き始め、深夜まで残業が続くようになりました。終電に間に合ったらラッキーなほうで、逃してしまった場合は、同期の家に泊まらせてもらって、何とかしのいでいました。
しかし、無理がたたって体調を崩してしまい、夏の初めごろから、しばらく休みをもらうことになりました。
そのころの私は、誰にも会いたくありませんでした。やせてしまった体を鏡で見ては、落ち込む毎日を過ごしていました。
ある日、管理人さんから、家のインターホンに突然連絡がありました。
「今日の花火大会、誰かと見に行くん?」
変わらぬ声に思わず泣きそうになったのですが、心を落ち着かせて今の自分の状況を話し、お断りしようとしました。すると、
「このマンションの屋上から、ばっちり見えるんや。私の友達も来るんやけれど、よかったに来ない?」
おばちゃん特有の圧にほだされて、一緒に見に行く約束をしてしまいました。
「あんまり、知らん人には会いたくないんやけどな」
ついつぶやいてしまいましたが、インターホンはもう切れていました。
出かける準備をして、「何か持っていかないと」と、久しぶりに外へ出ました。
スーパーに並ぶ商品はすでに秋の新商品が並んでいて、「意外と長い間、引きこもっていたんだな」と時間の流れの速さに驚きました。
私は、ラムネ味のドリンクと、たこ焼きや焼きイカを、数人分買って、マンションの屋上へと向かいました。
「あー、待っとったんやで!どうぞどうぞ」
管理人さんがドアを開けて、招き入れてくれました。
そこには、50~70代のおばちゃんたち5人が集まり、和気あいあいと花火が打ちあがるのを待っていました。
「こんばんは、若い子が私たちと過ごしてくれるなんてね」
「おばちゃん、お好み焼き持ってきたから、ゆっくりしましょうか」
次々と声をかけてくれて、久々に人の温もりを感じました。
午後8時になり、いよいよ花火大会が始まりました。
「ドォン」「ドォン」という音に合わせて、ビルの合間から見える花火の輝き…
思わず「うわぁ…」と声がもれました。
管理人さんは「な?きれいやろ?」と得意そうでした。
思えば、夏らしいことを何もできなかったので、こうした機会に巡りあえたことが本当にうれしかったです。
次の日の朝、管理人さんが掃き掃除をしていたので、「昨日はありがとうございました」と声を掛けに行くと、「いいんやって!また見ようか」と笑顔を見せてくれました。
ありがとう。管理人さん。
私は、今は別のところに住んでいますが、あの夜の花火の輝きを忘れた日はありません。
(エッセイ投稿者:ミノル/30代・女性)
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