この連載は、実家暮らしをしている新卒2年目の20代女子が、一人暮らしへの憧れから「オトナ女子のよりよい暮らし」を求めて部屋選びをする という、1話5分のあるある満載のwebノベルです。
「そろそろ一人暮らししたいな」と考え始めたあなた…!一人暮らしする前の準備を整えやすくなるかもしれませんよ!
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著:蛙田アメコ / イラスト:八咲ヒサ
お肉は叩いて柔らかく。
ハーブをすりすり、すりこんで。
一晩寝かせて、オーブンに。
「うん、琴美は本当に料理が上手ね」
「やめてよ、お母さん。お肉焼いただけじゃない」
「ひと工夫がいいのよ。レシピも見ないで作れるなんて、お母さんのことは思えないわね!」
「姉ちゃん、まじで料理だけは才能あるよな」
「ちょっと、だけはっていうのは余計なんですけど」
日曜日の家族団らんの生活。
今日は私がご飯当番。
安売りのお肉をご馳走にした。
受験のことで最近は喧嘩しがち(とてもうるさい)なお母さんと弟も、今日はにこにこ笑顔だ。
お母さんには謙遜したけど、お菓子作りや料理はやっぱり得意だ。
これは……未来の彼氏にも褒められること確定。
ふふふ、さっすが私!
まだ見ぬ未来の飼い猫ちゃんもにっこりのお料理上手だ。
猫はキャットフード食べるんだろうけれど。
あ、待って待って、もしかして『超キュートな料理研究家』みたいな感じでバズったりして!?
素敵なキッチン用意しておかなくちゃ、雑誌の取材とか来るかもだし!
「……姉ちゃん、ひとりで何ニヤニヤしてんの」
「――……え? べ、べつにニヤニヤしてないしっ!」
弟の視線が、冷たい!
ちなみに、お父さんはまだ会社。
ショウワの時代から続く会社で、土曜日曜祝日の出勤当たり前。
朝早くから終バス近くまで働いているお父さんはえらい。
お母さんがデザートの冷凍干し柿を食べながら、ふとした感じで切り出した。
「それで、琴美。家は決まったの?」
「うーん……いまいちピンとくるところもなくて。明日も内見の予定」
「そう」
お母さんはちょっと安心した感じで答える。
やっぱり、子どもがひとり暮らし始めるって心配だったり寂しかったりするのかな。
「まぁ、じっくり待てるのが琴美の特権ってところもあるわね」
「特権?」
「ええ。お母さん、前の会社では人事部にいたでしょ。転勤で地方にいったり都心にもどってきたりする人って本当に急だから、内見もしないで急いで部屋決めてるみたいよ」
「内見なし!」
「それどころか、『希望のエリアでいい感じの部屋が空いてれば御の字』ってかんじで、とにかく空いてるところを借りなきゃ~なんて話も聞くわ。1日2日で決めちゃうとか」
「ええ~!」
「新卒の子でも、寮に入らない子はそんな感じだったりするみたいね」
びっくりだ。
私の家選びと、全然違う!
「たしかに、実家にいる分、納得できる物件がでるまで待ってられるんだ」
いや、毎日の終バスダッシュはめちゃくちゃツラいけど。
お母さんと弟の大げんかを毎日聞くのはキツいけど。
なるほどなぁ。
* * *
翌日。
内見先のお部屋は、なんというか『まぁまぁ』という感じだった。
リストと照らし合わせても、合格かなってかんじだ。
(うーん、決めちゃってもいいかもなぁ……?)
そんな気分で、帰り際。
アパートの外に、大きなボンベが何本も並んでいるのを発見した。
あれ、たまに見るけどなんだろう。
ガス……?
最近何度か会っているアルアル不動産の田中さんが、「ああ、あれは」と説明してくれた。
「この物件、プロパンなんですよ」
「プロ……?」
「えっと、ガスにはプロパンガスっていうのと都市ガスっていうのがあって――」
「ああ、プロパンガス!」
この間、いろんな人に話を聞いていたときに出て来た、プロパンガス!
帰りの電車で、改めて都市ガスとプロパンガスの違いを調べてみる。
……うん。
まとめると、どうやら都市ガスのほうが比較的ガス代が「お得」だったりすることが多いらしく、選べるなら都市ガスがよさそうだ。
特に、会社の先輩みたいに煮込み料理をする人とか、毎日お風呂では湯舟に入りたい人とか。
「うん、やっぱり私は都市ガスの部屋がいいかも……お風呂はできるだけ湯舟に入りたいし、こう……コトコト煮込む煮込み料理とか、すっごい『丁寧な暮らし』ってかんじするし!」
この間作った女の子のひとり暮らしの『ゆずれないことリスト』、にひとつ書き入れる。
ガスは、都市ガス……っと。
そういえば、今日の物件は綺麗なキッチンだったけどIHのコンロだった。
誰かも、「コンロをこだわった」っていう人がいたな。
やっぱり実家と同じで「ガス火」が見えた方がいいな、料理するなら。
……これも、リストに追加だ!
少しずつ『家村琴美のひとり暮らしにゆずれないことリスト』に変わっていくのが、なんだか楽しい。
私による、私のためのリスト!
少しずつ、書き足して、削って。
――完成したリストは、こうだ。
◆ ひとり暮らしに譲れないことリスト
・ 月7~8万円前後の家賃(管理費、共益費込)
・ 駅から徒歩15分以内
・ 会社からドアtoドアで1時間以内
・ 女性を比較的多く見かける街であること(必ず街を散策すること)
・ 駅前や家との間に、スーパーやドラッグストア・コンビニがある
・ 夜道が暗くない(駅からのルートにお店がある、大通り沿いなど)
・ 洪水・土砂災害・津波のリスクがない場所であること
(ハザードマップをチェック)
・ マンションタイプ(絶対ではない)
・ 2階以上 、できればオートロック&カメラ付きインターホンあり
・ 東向きか南向き(絶対ではない)
・ キッチンは2口コンロ以上、絶対ガス火(都市ガス)
・ コンセントが十分に設置されている
・ 冷蔵庫や電子レンジ・炊飯器などの家電がおけるスペースがある
・ バストイレは別、3点ユニット(トイレも一緒のやつ)はNG
・ 洗濯機は室内必須、置き場所と家事動線の確認
・ 玄関に大きめな物入がある、室内の収納スペースも確認
・ …できたらペット飼育可能
「もしかしたら、こういう部屋は家賃はちょっと割高かもだけど、実家にいるうちに貯金ができるのも強みだし……!」
じっくり、焦らず。
安すぎる物件は、ちょっと注意深く検討して。
でも決断するときに、ズバッと決断できるように手持ちのお金は余裕を持ちたい。
「……家探し、なんか楽しいかも」
私にひとり暮らしなんてできるかな、という不安ばかりだった頃とはくらべものにならないワクワク感に、私は思わずガッツポーズをした。
*** TIPS ***
家村さん、キッチンのコンロは完全に「ガス派」のようですね。
【 ガス vs I H 】のコンロ問題。
これは、よく聞きますね。
賃貸の場合、自分で「ガス」か「IH」かを選ぶことはできません。それぞれのメリットとデメリットは自分で把握しておかないと、生活を始めてから困ってしまいます…
ということで、簡単にメリットとデメリットをまとめてみましょう。
料金については、別にまとめていますのでTIPSの下部をご覧くださいね。
〇:メリット、×:デメリット
◆ ガス
〇 停電時でも使える
〇 どんな鍋でも使える
〇 炙りができる
× 火を使うので、火事になる危険性がある
× 夏場は暑い
× 手入れが面倒(噴きこぼれなどの掃除は手間)
◆ I H
〇 手入れが簡単(五徳がないので、いつでも清潔に保てる)
〇 火を使わないので、火事にならない
〇 温度の立ち上がりが早い(お湯を沸かすとよくわかります)
〇 キッチンが暑くならない
× 火加減が分かりにくい
× 停電時には使えない
× 鍋を買い替えないといけない場合がある(IH対応可の鍋のみ)
並べてみると、断然こっち!ということにはならなそうですね。
好みやライフスタイルに合わせて選ぶのが良さそうです。
それともう一つ、気になる料金のお話し。
ガスとIHのキッチンでどんな差が出てくるのでしょうか。
ガスには「都市ガス」と「プロパンガス」があるので、【都市ガス・プロパンガス・IH】の3つで比較してみましょう。
◆ 1時間 料理をしていた場合の利用料金
(カーサミア調べ )
※すべて中~強火を想定
※基本料金は除外
・都市ガス 約33円(13A, 2.97kW,東京ガス6月単価145円/m3にて計算)
・プロパンガス 約51円( 2.97kW,東京平均479円/m3で計算)
・I H 約38円(1400w, 全国家庭電気製品公正取引協議会で定めている27円/1kWhで計算)
倍とまではいかないものの、確かにプロパンガスが一番高い結果になっていますね。この比較は、あくまで1時間料理をして火を使った想定のシミュレーションです。料理好きの人、外食が多めの人、などライフスタイルで大きく変わります。
またプロパンガスの場合、光熱費が高くなるのが分かっている分、家賃が都市ガスやIHの物件よりも抑えられていることもありますので、一部分だけ見ないで全体を見て決めるのが有益です。
ちなみにガスキッチンの物件が、なぜ「都市ガス」と「プロパンガス」に分かれてしまうかというと、 建物の築年数やその地域のインフラ整備の状況が起因しています。意外と都市ガスが整備されていない地区もあり、新築でもプロパンガスしか設置できない場合もあるので、しっかり確認しましょう。
家村さんのように事前にチェックリストを作成して、雰囲気に惑わされない物件選びをすることをおすすめします!
次回・最終話「10話 実家女子、かしこく家を出る」