この記事では「一人暮らしで犬を飼うことはどれくらい難しいか、飼うのに向いているのはどんな人か」について、犬のトレーニングサービスも行っているPeT2raineen(ペットレーニー)の代表トレーナー、高橋ルミさんが解説します。
こんにちは、アニマルトレーナーの高橋です。
今回は、一人暮らしの人が犬を飼うときに起こり得ることとその解決方法について、トレーナーとして飼い主として日々犬と向き合う私が、自分の経験をもとに解説するのでぜひ参考にしてください。
一人暮らしでも犬を飼えないことはないですが…
一人暮らしでも犬は飼えますが、ハードルが高いです。
犬だけで留守番できるのは、目安で5~6時間が限度。
犬は本来群れで生活する動物のため、飼い主といっしょにいる時間が足りないと、寂しくてストレスで問題行動を起こしてしまう可能性があります。
アニマルトレーナーでもある私も、以下のような経験をして、一人暮らしで犬を飼うのはあきらめたことがあるくらいです。
●外出時はトイレのしつけができないので、成功したときに褒めることが難しい。失敗したときにすぐ掃除できないので、誤った学習をしてしまう可能性があった。
●お迎えしてすぐは、ごはんをなかなか食べてくれず、仕事で外出するときは日中あげることができないので、食べムラがある状態でお留守番させなければならなかった。
●家を出た後に体調が急変し、おやつも口にしなければ、人にも寄って来ないことがあった。そのときはたまたま友達が家にいてくれたからよかったものの、友達が見てなければ様子が変なことに気づけなかった。
●子犬は足腰がそこまで強くないので、何かの拍子で足の関節が外れてしまったり、ソファーなどから飛び降りた際に足を痛めてしまうこともある。人が見ていてもヒヤッとする場面があり、目が離せない。
●お留守番時間が長くなるからといって部屋でフリーの状態でお留守番させていたら、部屋の壁が破壊されていた。
●お留守番中の退屈しのぎにと思っておもちゃを渡した際に、物によっては噛む力に耐えられず、お留守番中に壊してしまうことがあった。
●うっかり落とし物に気づかず出かけてしまい、すぐ駆けつけられなかったことも。
●お留守番をずっとさせることが難しいので、長時間のお出かけの際は預けないといけない。
●間違った行動を覚えてしまったときに、しつけをする時間を取れないと予防も行動の改善も難しくなる。
こうした経験からも、一人暮らしで犬を飼う場合は、「愛犬が問題行動を取ったり困りごとが起こったりしてハードルが高い」というのが個人的な見解です。
では、上記で紹介した私の経験も含めて、一人暮らしで犬をお迎えする場合、どんなハードル(=問題行動や困りごと)があるのか、その解決方法、飼い主としてどういうことが必要なのかを解説していきます。
寂しいと犬はどんな問題行動を起こすのか
あらためて、犬によくある問題行動と一人で飼育する際の困りごとには、以下のようなことがあります。
【愛犬の問題行動】
- 破壊行動
- 誤飲
- トイレの失敗
- 過度な吠え
- 社会性不足による人見知り・犬見知り
- 社会性不足による攻撃性や不安傾向の高まり
【困りごと】
- しつけをなかなか覚えず誤った学習をして成長してしまう
- 人見知りの犬の場合、誰かに預けられることが負担になる
- 愛犬の体調の変化にすぐ気付けず、緊急時の対応が難しくなる
- 幼少期や高齢期のケアが十分にできない
- 運動不足になり肥満傾向になる
- 賃貸の場合、家を出る際の修繕費が高額になる場合がある
問題行動を起こさないようにするには? Q&A集
次に、問題行動や困りごとについて、Q&A形式で個別に解決方法を紹介します。
- Qお留守番中に、いろいろな物を破壊してしまう場合はどうしたらいいですか。
- A
破壊行動は、噛む欲求が満たされていないことから発生することが多いです。
お留守番をする前にたくさんロープなどで引っ張りっこ遊びをして、噛む欲求を満たした上で、噛む物がない場所(ハウスやケージ)でお留守番させましょう。
- Qお留守番時の誤飲を防ぐ方法を教えてください。
- A
とにかく口に入れてほしくない物を手の届く範囲におかないこと。
とはいっても、うっかりして落としてしまったことに気づかない場合や、片付け忘れなどがあるので、お留守番時は愛犬をハウスやケージに入れておくことがいちばん簡単な解決方法です。
- Qトイレの場所をなかなか覚えてくれません。どうしたら覚えてくれますか。
- A
そもそも犬は、トイレを本能的に特定の場所にする動物ではありません。根気よく教える必要があります。
トイレの場所を覚えないのは、あちこちに失敗したおしっこの臭いが残っているから。
「トイレは決まった場所でするものだ」ということを学習する前に、おしっこエリアを広げてしまい、「トイレはどこでしてもいい」という誤った認識をしてしまうことが原因です。
犬のトイレについて、もっと詳しく
犬は、寝床ではトイレをしないという習性を持っています。
その習性を活かして、まずはケージの中にトイレと寝床(クレート)を用意し、寝床以外にトイレシーツを敷き詰めます。
狭いエリアであれば、寝床以外の場所でするので必然的にトイレの場所でする確率が上がります。できたことを褒めることで、トイレシーツの感触やトイレの感触を覚えるようになります。
■トイレを教える手順
そろそろ出そうだなというタイミング(匂いを嗅ぎながらくるくる回るなどの行動)で毎回同じ掛け声(例/「シーシー」や「トイレ、トイレ」など)をかけます。うまくトイレができたらたくさん褒めてあげます。
この経験を繰り返すことで、自ら正しい場所でトイレをするように教えられます。
失敗した場合は、怒らずに無言で掃除をしましょう。
- Q吠え続けるときはどうすればいいですか。
- A
吠えることにより飼い主が犬の要求になんでも応えてしまうことが原因。普段からたくさん遊んであげた上で、犬だけで過ごす時間をあえて作りましょう。
吠えても無視して静かになるまで待つ、または犬の視界に入らないようにケージにタオルをかけてもいいです。
吠えたからといって何も要求が通らないということを学習させましょう。
- Q人見知りの犬であり、人に預けられることが負担になるようです
- A
人見知りの人間がいるように、ワンちゃんにも人見知りや犬見知りをしてしまう子がいます。
多くは親犬の性格の遺伝ですが、子犬のうちから人や犬に慣れさせることである程度解消できる場合もあります。
子犬のうちから、飼い主以外からご褒美をもらったり触られたりする経験をさせるほか、相性が合うワンちゃんとコミュニケーションを取るようにしましょう。
- Q緊急時の対応が難しい、幼少期や高齢期のケアが十分にできない
- A
一人暮らしの場合は、これらがかなりのリスクになる可能性があります。
ペットシッターに見てもらう、犬の幼稚園に連れて行く、近くに家族が住んでいる場合は来てもらうなど、周囲に頼れる環境を作りましょう。
- Q運動不足になり肥満傾向になる
- A
一緒にいられる時間にたくさん遊ぶこと、ごはんをあげすぎないことが重要です。
- Q賃貸の場合、家を出る際の修繕費が高額になる場合がある
- A
愛犬が壁をかじってボロボロにしてしまうことはよくあります。傷付けられたくないところは、早めに対策しましょう。
具体的には、
●壁の周りにフェンスを置いたり、壁紙保護シールを貼ったりする。
●フリーにするエリアをサークルで囲ってしまい、傷付けられたくないところに届かないようにする。
■おすすめのペットフェンス
一人暮らしでも犬を飼いやすいのはどんな人?
ここまでで解説した内容を見ても、一人暮らしで犬を飼うのは簡単ではないことがわかっていただけたと思います。
では、どんな人なら一人暮らしでも犬を飼いやすいのでしょうか。
時間的な自由が利く
フリーランスや在宅勤務、フルフレックス勤務のように、仕事や生活のスタイルが柔軟で、犬の世話に必要な時間を確保できる人は、犬を飼いやすいです。
十分な経済力がある
犬の飼育には食費、医療費、ケア用品など、継続的な経費がかかります。
また、お留守番してもらう際に、ペットシッターや犬の幼稚園などへ愛犬を預ける費用も必要。これらの費用を安定して賄える経済力がある人が望ましいです。
犬に関する知識と経験がある
犬の飼育経験が多くある、または犬の飼育に関する十分な知識を持っている人は、犬の世話を正しく行えます。
忍耐力と責任感がある
犬の訓練や世話には忍耐力と責任感が必要です。
しつけも「一度教えたからいいや」ではなく、継続的に向き合うことで、犬の問題行動や健康問題にも適切に対処できます。
適切な環境が整っている
一人暮らしで犬を飼うのに適した環境がある人も飼いやすいです。
たとえば近所に犬を見てくれる家族や知人がいる、預ける施設がある、ドッグランなどペットを遊ばせる場所があるといった環境が整っていると安心です。
一人暮らしに向いている犬種は?
一人暮らしに向いている犬種はまず小型犬がおすすめ。
多くのペット可の賃貸物件は小型犬までという制限がある場合が多いのと、日々の移動のしやすさやお世話の手間も考えると、小型犬が望ましいでしょう。
具体的なおすすめ犬種を以下で紹介します。
運動量が少なめの犬種
運動量が少ない犬種は、一人暮らしの忙しいライフスタイルに適しています。
例:フレンチブルドッグやシーズーなど
性格が穏やかな犬種
穏やかで、独りでいる時間を平気で過ごせる性格の犬種は、一人暮らしに向いています。
例:キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルやブルドッグなど
鳴き声が少ない犬種
鳴き声が少ない犬種は、アパートやマンションなどの密集した住環境での飼育に適しています。
例:ブルドック、フレンチブルドック、パグ、ボストンテリア、シーズーなど
適応性が高い犬種
新しい環境や状況に柔軟に適応できる犬種は、飼い主が一人暮らしの生活環境に適しています。
例:ポメラニアンやボストンテリアなど
これらのほかの人気犬種は?
これらのほかペットショップや街中でよく見かける人気犬種は?と思った方もいると思います。
最近の人気犬種で言うと、王道のトイプードル、チワワ、ポメラニアン、ダックスフンド、MIX犬。
これらの犬種を希望する場合は、おっとりした性格の子を選ぶことをおすすめします。
性格は、親の性格から遺伝すると言われているので、親犬の性格から推測するのがいい方法です。
一人暮らしで飼う場合に、こころがけるといいこと
問題行動を起こしたり、困ったことになったりしないためにこころがけるといいことを解説します。
目を離すときの過ごさせ方
・たくさん遊んで運動をさせて疲れた状態でお留守番させる
・知育玩具など、目を離しても壊れないようなフードを入れるおもちゃを与える
・長く齧っていられるおやつを与える
といったことでお留守番が楽しくなるような工夫をしてみましょう。
■おすすめの知育玩具
■耐久性の高い玩具
1日の犬との過ごし方について
・遊ぶときはとことん遊ぶ
・飼い主と距離を置くときは置く
このようにメリハリをつけることが、お留守番を上手にできるようにするいちばん重要なポイントです。
いっしょに居過ぎると飼い主に依存してしまい、飼い主と離れることに強い不安を覚えてしまう分離不安症になってしまう可能性があります。
たくさん遊んで愛犬の欲求を満たした後に、クレート(屋根も付いた持ち運びできるケース)やハウスに入れて飼い主と離れることに慣らしたり、自分の要求が通らないときもあるという経験をさせたりすることで、愛犬主導ではなく飼い主さんの生活リズムに合わせられます。
十分に運動させる
犬を飼う場合、十分に運動させてストレス解消すると問題行動を起こしにくくなります。
1日に必要な運動量については犬種、年齢、生活リズムによっても変わるので一概には言えません。
お散歩をしないと疲れないという考えもありますが、一概にお散歩だけで疲れるかというとそうではありません。
ちなみに小型犬は、約40分の散歩でやっと疲れるというデータがあります。それに比べ引っ張りっこなどの道具を使った遊びは、15分くらいでも散歩1回分と同じくらいの効果があると言われています。
本来、犬のルーツである野生の狼は狩りをして自由に動き回ります。お散歩は、リードが付いた状態なので行動に制限がかかりますよね。ですので、本能的な要求を満たすことができません。
本能的な要求を満たすことがエネルギーをいちばん使う手段、すなわち疲れることになります。破壊行動や噛み癖を減らすためにも、お散歩に行けないときは、ロープなどおもちゃを使って引っ張りっこ遊びをしながら狩の擬似行動をさせるのも有効的な手段です。
また、ノーズワーク(鼻を使ってご褒美を探す訓練)なども、暇な時間に犬だけで取り組めるのでおすすめ。
■おすすめのノーズワーク玩具
犬は人と触れ合うことでオキシトシンと呼ばれる幸せホルモンが分泌されると言われているので、たくさんコミュニケーションを取って遊んであげることが重要です。
一人暮らしで犬を飼う場合に、しつけておいた方がよいこと
問題行動を起こしたり、困ったことになったりしないために、一般的なトイレや「待て」、「お座り」などの基礎的なこと以外で、おすすめのしつけとトレーニング方法を解説します。
社会化トレーニング
犬のお世話をする際に使う道具や、インターホンなどの生活音に慣れさせる、知らない人や体格が同じワンちゃんに会わせる、お風呂に入れるなどの経験をすることで社会性を身につけるトレーニングです。
社会化トレーニングの方法
生活音は、録音して部屋に流し続けるといいでしょう。
そのほか上記の経験をさせる際は、最初は短時間から。
ご褒美(おやつ、または子犬の場合はドッグフードでも十分)を与えながら、時間を徐々に伸ばしていくといいです。
ご褒美以外にもスキンシップが好きなワンちゃんには、褒め言葉をかけながらたくさん撫でてあげましょう。
クレートトレーニング
たくさん遊んだ後に、クーレトやハウスなどに入れて、人と物理的に触れ合えない時間を作りましょう。
飼い主さんと離れることへの不安感を減らしたり、時と場合によっては要求を我慢できるように精神面を強くするトレーニングです。
クレートトレーニングの方法
たくさん遊ぶ
↓
トイレに連れて行く
↓
クレートにご褒美(おやつ)をあらかじめ入れておき、入ったら扉を閉める
↓
タオルなどをクレートにかけて暗くする
↓
吠えたり鼻を鳴らしても無視する
↓
静かになっているタイミングで解放してあげる
(最初は短時間からで徐々に時間を伸ばしていく。最長3~4時間ほど)
↓
解放後は、トイレに連れて行った後に遊んであげる
この流れで教えることで、トイレの練習にも繋がります。
タオルなどをかけて暗くするのは、もともと犬が洞穴で寝ていた習性を活かして、暗くすることで休息しやすい環境を作り出すことを目的としています。
一人暮らしで犬を飼うとなると、経済的な余裕や協力してくれる周りの環境などが整っていないと、難しいのがわかりますね。
でも愛犬もひとつの大切「命」。
相応の条件が整っていないのに飼ってしまうと、後悔することになりかねません。
よくよく考えて飼うかどうかを決めたほうがいいと思いました。
トレーニングは、その子の性格や気質によってもアプローチ方法が異なる場合があるので、うまくいかない場合や不安な場合は、ぜひ一度ご相談ください。