一人暮らしの女性に向けて様々な情報を発信しているカーサミア。
掲載している記事の大きなカテゴリーとして「おうち」「暮らし」「防災」があります。
ある日、その中の防災の記事に注目してくれた方から「私が住んでいる地域の防災訓練で配る資料として、カーサミアの女性防災士さんが書いた記事を使いたい」という連絡が入りました。
詳しくうかがってみると、女性ばかり9名が主導して、地域の防災・防犯についての啓蒙活動の一環として、大規模な避難訓練を計画しているとのこと。
女性ならではの視点を大事にして記事を掲載しているカーサミア編集部としては、「これは興味深い活動に違いない」と思い、急遽、現地・福岡県早良区有田に飛んで取材をすることを決定!
カーサミアの読者のみなさんにも、きっと共感いただけるお話をいろいろと聞くことができました!
今回はその取材の模様をお伝えしたいと思います。
取材レポート。女性9名が企画した避難訓練とは?
取材先の福岡県早良(さわら)区有田はどんなところ?
取材にうかがったのは福岡県早良(さわら)区有田。
早良区の海辺は「福岡タワー」や「シーサイドももち」があり、新しく開発された観光地といった雰囲気です。「福岡paypayドーム」も近いです。
早良区有田は少し内陸に入ったところに位置し、都市部近郊の穏やかな住宅街といった印象でした。福岡の中心部である博多や天神からは12キロほど。地下鉄のアクセスもよく、人気の住宅地だそうです。
ここで昨年(2022年)の11月に新たに発足したのが有田校区自治協議会の自主防災活動を担当する「有田防災9(ナイン)」。
有田校区の9名の女性が中心となっていることから名付けられたそうです。
取材当日はメンバー9名の中から、今回の防災訓練の発起人Aさんや公民館長をはじめ4名の方が集まってくださいました。
ではまず「有田防災9(ナイン)」が何をしようとしているのかといったところからお話を聞いてみましょう。
今回、主にお話を伺ったのはこのお二人
発起人・Aさん
今回の防災訓練の発起人の方
好きな言葉:しない後悔よりして後悔
Bさん
カーサミアの記事を防災訓練に活用しようと、ご連絡くださった方
好きな言葉:自分がしてあげたことは水に流せ、
人にしてもらったことは石に刻め
有田校区自治協議会の自主防災会「有田防災9」とはどういう組織ですか
Aさん 有田校区自治協議会(早良区では小学校の校区内の自治会・町内会が集まって「自治協議会」として活動しています)は10町内会の集まりで、町内会ごとにいろいろな役割の振り分けがあります。
その中の一つとしてもともと自主防災会はありました。
これまでは男性が自主防災会長をすることが多かったのですが、たまたま私が担当することになって、自分がやるならもっと女性の目線で防災について考えたらどうだろうと思いつきました。
そのほうが身近なところから防災活動ができると考えたんです。
そこで、有田公民館を通じて校区内の女性に声をかけて、集まってくれたのが有田防災9(ナイン)の9名でした。公民館はこのほかにも、避難訓練全般について力強いサポートをしてくれました。
全員が女性であることを除いては、子育て真っ最中の世代からずっと上の世代まで幅広く、普段の活動も様々です。
年代がバラバラということで、防災活動についての意見やアイデアもバラエティに富んで、月1回の会合の度に驚きがありました。
どのような活動をしていますか?
Aさん 避難訓練の開催に向けて準備を進めているところです。有田校区全体として行うのはおそらく初めて。
昨年の11月から有田防災9(ナイン)で毎月1回会合を開いて避難訓練のため計画を練ってグッズや資料を整えてきました。
資料づくりの中でカーサミアさんの防災記事を見つけて、ぜひ活用させてもらいたいとお願いした次第です。
避難訓練は実践的であるだけでなく、人がたくさん集まることで、当日参加しない人にも「何か防災のイベントをしている」ということアピールできます。
そこをきっかけに防災意識を育てていきたいというのがねらいです。
3日後の3月12日が第一回となります(※編集部注/取材は3月9日)。
できれば毎年続けていくことで、私たちの世代だけでなく、若い世代や地域の子どもたちにも防災意識を根付かせたいというのが本当の目的なんです。
というのも、ここ早良区有田は、幸いにも大きな災害に見舞われたことがないのどかで住みやすい地域。
海や山がそばにあって崖が迫ってという、いかにも危なそうという場所ではありません。
強いて言えば室見川という大きな川があって、増水したり少し川が溢れたりしたことがあるくらい。
どうしても災害に備えるという意識は薄くなりがちです。
ですが災害はいつどこででも起こる可能性がありますよね。
なんとか次世代や子どもたちに防災意識を持ってもらいたい。
これから長い目で見て「防災」について啓蒙していければと考えています。
今回の避難訓練は具体的にどのような内容ですか?
Aさん 昨年11月から計画し始めて4カ月の準備期間で、当初の目標150名のところを180名(スタッフ含む)まで参加予定者を増やすことができました。
「避難訓練中」と書いた180名分のビブス(ゼッケンのようなもの)を用意して、当日は参加者全員が付けて避難場所の次郎丸中学校に集まってもらいます。
有田校区のあちこちからビブスを付けた人が街中を歩いてくるので目立ちますよね。
それと、避難訓練当日は各町内の放送のほかに、青パト(青色回転灯と拡声器を装備した防犯パトロールカー)で有田校区内を巡回して、避難訓練を行うことをアナウンスもします。
いままで大きな避難訓練は行ったことがないので、これだけでもかなりのアピールになると考えています。
避難訓練を実施するという目標を立てると、いろいろと課題も見えてきました。
避難場所が用意されていても、例えば一人暮らしのお年寄りで体が不自由だと逃げたくても一人ではなかなか避難できません。
万が一のときは近所の人が声をかけたり一緒に避難したりする必要も出てきます。
ですが、この有田校区内も人の入れ替わりが進んでいるので、近所にどういう人が住んでいるか、みんなが把握しているわけではないです。
町内会の人同士のつながりが希薄だと、避難場所や避難設備、避難物資といったハード面をいくら整えても、逃げ遅れる人が出てくる可能性があります。
ハード面も大事ですが、今回の避難訓練が人のつながりも含めた防災意識、言うなれば防災のソフト面も考えるきっかけになればと思っています。
女性ばかり9名が集まっていることのメリットは?
Aさん 有田防災9を結成する前も、男性主体で町内会の防災に関する勉強会は開かれていたんです。ただ長年やっているとなかなか新しいアイデアや意見が出なくなり手詰まり感があったのも事実です。
ところが有田防災9での初会合では、それまでの男性目線とは違う女性ならではの身近な意見が次々と出てきました。
避難所の倉庫の備品としては、もともとパーテーション、ブルーシート、テント、水、パン、かゆなどの在庫がありました。追加で何が必要か挙げてもらったところ、消毒液、ハンドソープ、トイレットペーパー、ティッシュペーパー、マスク、ゴミ袋、ラップ、アルミホイル、紙皿、紙コップ、タオル、バケツ、ガムテープ、養生テープ、ゴム手袋、軍手、子どものおもちゃなど、女性目線ならではの意見がいろいろと出てきたんです。
小さな子どもを育てているメンバーからは「避難先で液体ミルクが必要」といった要望もありました。
さら会合を重ねていく中で、熊本の地震のときに避難先で女性の性被害があったという情報も共有されました。
このように、女性だから気にする、若い世代だからわかる、身近できめ細かい情報や意見が集まったのは、幅広い年齢層の女性が9人も集まったからこそだと思っています。
- Q避難所での避難訓練を女性が企画する意味は?
- A
女性が企画すると、女性ならではの視点で避難所について考えることができます。
大勢の人が学校の体育館などに避難してきた場合、更衣室がなかったり、施設のトイレが使えなかったりするとプライバシーが守られませんし、性被害にも繋がりかねません。
男性にとってはそれほど重大なことでなくても、女性には大問題なことに気づいて対策を取れるのは、やはり女性ではないでしょうか。
カーサミアのどこに注目されたのでしょうか?
Bさん 避難訓練をするに当たって、どんな情報が必要か最初はまったくわかりませんでした。
そこで東日本大震災、熊本地震に関する書籍で、女性の視点に立った論文や事例を載せたものをたくさん読んで調べました。
そんな中、避難所のスペースをどう使えばいいか考えていたときに、「女性の視点に立った避難所」について女性防災士の方が書いた記事を探していたところ、カーサミアさんの記事に出会ったんです。
簡潔にわかりやすく、避難所での性被害や性暴力についてまとめられていて。これはためになるので、有田防災9の中だけでなく、今回の避難訓練の参加者にもぜひ知ってもらいたいと考えました。
そこで、「配布資料にカーサミアの記事の内容を転載する許可をもらいたい」という連絡をカーサミア編集部にしたんです。そしたら転載の許可だけでなく取材の申し込みまでいただいて、とてもうれしく思っています。
- Q「避難所で起きるセクハラ・性被害の実情とは?」
- A
2016年4月に発生した熊本地震では、熊本県内の指定避難所で10代の少女がボランティアの少年から暴行を受けるという事件が実際に起きています。
このときは少女の母親が気づいて警察に被害届を出しましたが、泣き寝入りして申告されなかったセクハラ・性被害は一定数あると考えられています。
今回の避難訓練のために用意したグッズや資料について教えてください。
ビブス(ゼッケンのようなもの)
Aさん 先ほど話が出ましたが、避難訓練の参加者全員が付ける「訓練」と書いたビブス(ゼッケンのようなもの)を180人分。これは福岡市から提供してもらいました。
ラミネート看板
Bさん 「救護場所」や「避難本部」、「受付」などの場所を告知するラミネート看板も準備しました。
子どもにもわかりやすいように「ウサギの場所に行ってね」「クマの絵のところだよ」と伝えられるよう、キャラクターのイラストをあしらうなど工夫してくれています。
女性と子どものための「相談先カード」
Bさん 避難所での性被害について、NHKで3年前にやっていた番組の中で「相談先を書いたカードを女性に配る衛生用品と一緒に配るとよいのではないか」という意見を聞いていたので、女性や子どもが万が一避難所で性被害や暴力、セクハラに遭いそうになったときの「相談先カード」も作りました。
100均で売っている名刺用の紙に困ったときの相談窓口の連絡先を書いた紙を印刷して切り離し、同じく100均のカードケース(トレカケース)にひとつずつ挟んでいます。
今回は、それを子どもたちにも配ることにしました。性被害者の年齢層は若くて、「NO」と言えない子どもたちがターゲットになることも多く、普段からそういう意識を持たせることは、先々の性被害防止につながると思います。
女性のための防犯資料
Bさん 災害時に女性に対する性暴力が起こる可能性があるので注意が必要ということを知ってもらうために、「有田防災9が女性目線で考えた避難所情報とおすすめ防犯グッズ」と題したリーフレットも作りました。
女性用の更衣室や授乳スペースがあればプライバシーは守れるし、「みんなで見守り隊」が監視したり、「女性のニーズに応える窓口」があれば女性が気になることをすぐ相談できてりして安心です。
今回の避難訓練ではそこまで手が回らなかったというのが実情です。ただ今後実現できるように女性たちで声を挙げる続けることが大切だと考えています。
防犯資料には、カーサミアの記事を活用いただきました|編集部撮影
Bさん そしてこちらが先ほどお話しした、カーサミアの防災記事を要約し、転載させてもらったものです。
特に注目したのが「避難所での性被害を防ぐポイント」「女性に必要な防災時の防犯グッズ」の記事でした。
女性の視点に立った防災に関する参考文献はいろいろありましたが、「避難時や避難場所での防犯」、それも女性向けのことについて、カーサミアの記事のようにわかりやすく簡潔にまとめたものは、私が調べた限りほかに見当たらなかったんです
注目していただいたカーサミアの防災記事はこちら
参加記念品
Aさん 参加記念エコバッグは、防災訓練当日に、飲料水(5年間賞味期限付き)のペットボトルと、真空パックの菓子パンを入れて、記念品として配ります。
エコバッグは、普段のお買い物などで使ってもらうことで避難訓練に参加したことを訓練後もずっと覚えていてもらって、少しでも防災意識が根付く助けになればという想いから配ることにしました。
不採用になったアイデアも…
Aさん このほか、避難済みのお宅に「避難完了」の旗を立てて、避難できていない家がわかるようにしてはどうかという意見もありました。
逃げ遅れを確認するにはいいアイデアだと思いましたが、避難時の防犯という観点では空き巣狙いに「ここの家にはいま誰もいません」と教えていることになってしまいます。
それではまずいのでこのアイデアは不採用となりました。
旗のアイデアはほんの一例ですが、有田防災9のみんなで知恵を出し合って、取捨選択をした結果がいま紹介したグッズや資料となっています。
今後の展開は?
Aさん 3日後の避難訓練を成功させたいというのが目下の目標です。
うまくいったら毎年のようにできればと思いますし、勉強会なども開いて防災意識を育てていきたいです。
今回、避難訓練の計画を立てていく中で有田校区にも防災士の資格を持っている人が4名いることがわかりました(男性2名・女性2名)。今後は10町内ある有田校区の町内に最低1人ずつ防災士がいるようしたいと思います。すでに昨年12月には防災士の資格に興味がある人向けの講習会も開きました。
防災士が町内にいるという安心感も、住民同士のつながりや防災に関する知識や避難のしくみといったソフト面の強化につながると考えています。
取材を終えて…。
インタビューでは「普通の主婦が集まり、防災を考えて企画した訓練です。」とおっしゃっていましたが、もともと地域のことを大切に考えて活動していらっしゃる女性たちだからこそ、女性目線で、優しく心配りのできる避難所開設という企画の避難訓練ができたのだと思います。
編集部:アサノの感想
カーサミアで発信してきた情報が、「いま現在」だけでなく、「次の世代」にまで役立てていただけたら、こんなに嬉しいことはありません。
私たちは日頃、ウェブを通じて活動しているため、地域でリアルな活動されている方のお話を伺えたのは、大変貴重な経験でした。また、読者の方のご感想を直接聞く機会もあまりないので、個人的に大変嬉しく感じております。
カーサミアは「都会で一人暮らしをしている独身社会人女性」を対象にした、ピンポイントな情報発信をしています。それは「一人暮らしの独身女性は相談できる相手も少なく、社会的にも経済的にも弱い立場になりがち」だと感じているため、そうした女性たちに向けて情報発信していきたいという想いから始まったものです。
今回のインタビューの中では「女性の視点」のみならず、「子どもたちなど、次の世代を育成する」という言葉が何度か出てきたことが印象的でした。
今回の防災訓練は「都会で一人暮らしをしている独身女性」のためのものではありません。しかし、「弱い立場」である女性や子どもに向けて必要な情報を伝えていきたいという気持ちは同じで、普遍的なものだと感じました。
また、いまの子どもたちも5年後、10年後には都会で一人暮らしをするかもしれません。カーサミアで発信してきた情報が、「いま現在」だけでなく、「次の世代」にまで役立てていただけたら、こんなに嬉しいことはありません。
これからもカーサミアらしい「ピンポイントさ」を大切にしつつも、多くの人に役立つ「普遍性」と両立できるような記事を作っていきたいと、気持ちが引き締まる思いをいただきました。
編集部:イイダの感想
私たち編集部メンバーの中では「当たり前」になっていた知識も、いま一度、より多くの方にお伝えし、少しでも誰かの力や支えとなることができればと思いました。
カーサミアで防災記事を扱っているからこそ、私たち編集部メンバーの中では「繰り返し目にして身についていた知識」や、「みんなが当然に知っていると思ってしまっていたこと」が、今回お話を伺うことで「多くの方の当たり前」の中に入っていない危険もたくさんあるということを改めて認識しました。
実際に震災や大規模災害時、避難所の映像などはニュースやネットでも多く目にします。
しかし、そこで「女性だから」と直面する問題は見えづらいと思います。
たとえば生理用品はどうしたらいいか、避難所での性被害の発生、そういったシーンで自分が誰に相談できるのか、みんなの一大事にと自分を我慢してしまう方への心的ケアや公的な相談窓口など…。
そうしたさまざまな問題も、いま一度、より多くの方にお伝えし、少しでも誰かの力や支えとなることができればと思いました。
この取材の数日後、3/12の避難訓練が大成功に終わったお知らせをいただきました!
同時に、新たに見えてきた課題もあったとのこと。
実際の避難訓練の様子は、後編の記事にてお伝えいたします。