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新社会人で、研修もなく在宅勤務。不安のなか衝動買いしたソファは【一人暮らしエッセイvol.30】

一人暮らしエッセイ
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私を包み込むソファがある、という幸せ

私がそのソファを買ったのは、社会人1年目に初めてのボーナスが振り込まれた6月のこと。

2人掛けの白いソファです。そのソファと出会ったのは、社会人になる前、新生活に必要なものを探しに行った家具売り場でした。何気なく座ってみると、肌触りの良いふわふわの生地が体全体を包み込んでくれました。
私はその場からしばらく動けなくなり、6月のボーナスが出たら絶対に買うんだと決心したのを、今でも覚えています。

私の7畳の部屋にはあまりにも大きすぎて、不格好な部屋になってしまうことが容易に想像できましたが、それでもあのソファを買いたいという気持ちが変わることはありませんでした。

社会人になって早々に、外出自粛の社会情勢となり、研修もなくなり、いきなりの在宅勤務。不安な中での社会人生活が始まりました。

右も左も分からない中で、とにかく指示されたことを必死にこなしていました。私は一体何をしているんだろう、役に立てているのだろうかと毎日不安になりながら過ごしているうちに、心がすり減っていくのを感じていました。

それでもがむしゃらに仕事を続け、あっという間に6月になりボーナスが支給されたとき、私はかなり精神的に参っている状態でした。
そんなとき、入社前に「絶対に買うんだ」と決心したあのソファの存在を思い出し、衝動的に通販サイトの「購入する」ボタンを押しました。

数日後に届いた大きくて立派なソファは、私の家には、やはり不釣り合いでした。

でも、そのソファに寝転ぶと、なんだかほっとして、実家にいたときのことを思い出したのです。

私の実家には、リビングに大人5人が座れるサイズの大きなアジアンデザインのソファがありました。私はそこでいつもうたた寝をしては母に怒られていました。

ただ、家族がいるリビングで寝ころがると、安心感からなのかいつも睡魔が襲ってくるのです。テレビの音や家族の会話、料理を作る音全てが、まるで子守唄のように私を包み込むのでした。

一人暮らしの部屋にある私のソファと実家のソファとでは、形もデザインも大きさも全く異なるものでしたが、あの実家にあるソファに寝転んでいるような不思議な安心感があります。

私は今年で社会人3年目となり、1年目に比べると仕事も一人暮らしにも慣れ、毎日を楽しめるようになりました。

しかし、1年目は人に会うこともできず、仕事も不慣れで、毎日戸惑ってばかりの生活でした。実家に帰りたい、そんなことばかりを考え、今の現実から目をそらしていました。
あのころの私の心を支えてくれたのは、間違いなくこのソファです。家族で暮らしていたときの幸せな記憶や思い出も呼び戻してくれました。

一人暮らしにおいて大切なのは、自分の心が安らげる場所を作りあげることだと教えてくれる、私だけの大切なソファに、私は今日も寝転がっています。

これから先、どんなに辛いことがあろうと、家に帰ってくれば、私を丸ごと包み込んでくれる場所があるということが、どんなに幸せなことか。そのことを心に刻んで、毎日を大切に生きてゆきたいです。

(エッセイ投稿者:かな/20代・女性)

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